同じ月の下で
大抵はそこから二人きりで過ごせるからだ。
会社までの道のりは、彼のことを好きだと実感できる一番の時間だ。
お互いの一日を話したり、昨日見た夢を話したり。
のんびりと流れる、この時間がとても好きだった。
彼は同じマンションの別の部屋に住んでいる。
だから、喧嘩しても、次の朝は笑顔で迎えられる。
以前、大きな喧嘩をした夜、彼から仲直りの電話があった。
大きな、大きな満月の夜だった。
彼は電話で「喧嘩した夜は月を見て」と言った。
空を見上げる。
同じように空を見上げていた彼と視線が合った。
(同じ月の下で僕たちは暮らしてる。)
星とか空じゃなくて、月、と彼は表現した。
見えない日もあるけれど、それでも月は空に輝いている。太陽の光を受けて。
それはお互いを補う、私たちの関係にも似ていると思った。
彼の発言が、とても愛しいことに思えて、私は彼のことを深く好きになった。
思い出して、笑みを浮かべると、彼は怪訝そうに私を見ていた。
私は微笑みながら、空を指さす。
「同じ月の下にいるよ、」
私が指さした先には、朝の光の中、白く浮かぶ月があった。
彼はそれを見て、照れくさそうに、微笑った。