夕陽の秘め事
夕日が眩しい放課後。
図書委員会顧問の昭和は、今日の図書当番をしている室町の様子を伺いに図書室へ足を踏み入れた。
室内に人の気配はなく、少し開いた窓から入った風がカーテンを揺らすだけ。
入口のすぐ横にあるカウンターを見れば、見慣れた姿があった。
室町はカウンターにつっぷし窓のほうへ顔を向けながら規則正しい寝息をたてていた。
利用者がいなくて暇だったせいで寝てしまったのだろう。
彼は当番だから寝てはいけない、という考えの持ち主ではない。
すやすやと眠る姿を見て、自然と小さな笑みが浮かぶ。
自分側からは室町の顔は見えないので、昭和は起こさないように足音を忍ばせながら窓のほうへ移動し、空いていた室町の隣の椅子へ腰掛けて寝顔を見つめる。
地毛だという蜂蜜色の髪は日の光りを受けキラキラと輝き、長い睫毛は目元に陰を落としていた。
いつも勝ち気な瞳は閉じられ、油断しきっている表情は起きているときよりも数段幼くまるで少女のよう。
さすがは学校のアイドル。
彼の持つ美しいさを改めて目の当たりにし昭和は感嘆した。
「喋らなきゃこんなに可愛いのになぁ」
そんな可愛らしい顔の中で目立つ赤い唇。
いつも見ている唇なのに、なぜか視線が外せない。
見れば見るほどなにかに惑わされるようで。
まるで花の香に誘われた虫のように、昭和は寝息を立てる室町へ顔を近づけそっと口づけた。
触れるだけの短いキス。
たった一瞬だったか、それは昭和を満足させるのに十分だった。
室町と付き合い始めて数カ月、教師と生徒という立場のおかげで学校内でこんな恋人らしいことはしなかったし、できなかった。
だからこんな一瞬でも昭和にとっては特別で幸せな時間。
優しい笑みを浮かべながら起こさないようにそっと頭をなでる。
「好きだよ」
耳元に口を寄せ小さくそう囁くと、もと来たように足音を忍ばせ図書室を去っていった。
「…っ」
昭和の足音が遠ざかったのを確認して室町は目を開けた。
その顔も首も耳も全部赤い。
狸寝入りだった。
彼は戦前が部屋に入って来た時から目を覚ましていたのだが、相手がどんな反応をするだろうかと思い寝たふりをしていたのだ。
起こされたら文句を言ってやろうと思っていたが、思わぬ(しかも相手も無自覚の)反撃を食らわされ起きるに起きれなくなってしまった。
熱を持った耳を塞ぎ、室町は小さくため息をついた。
「………先生のばか。」