晩秋の夕暮れには
あともう一つ季節を越えればこの生活も終わりがくる。
奈良ちゃん飛鳥ちゃんとご飯食べたり、鎌と体育で競ったり、戦後や後輩達と委員会で遊んだりすることも出来なくなる。
古墳と一緒にいることも。
生まれた時から同じ道を通って来たあいつとは、ついに分かれ道に差し掛かることになった。
真っ赤な夕日が空を染める河川敷。
俺達は6年間この道を毎日のように一緒に通った。
晴れてる日は古墳のチャリの後ろに乗って。
雨の日は二人並んで傘をさして。
会話はたわいもないその日学校であったこととか、また会話がない時もあった。
普段なら沈黙に堪えられない俺だけど、古墳とならまったく大丈夫だった。
むしろその沈黙が心地よいくらい。
今も会話はなく、古墳の大きな背中に寄り掛かってかすかに聞こえる心臓の音に耳を澄ませるだけだけど気まずさは全くなかった。
頬っぺたに当たる風が少し冷たい。
他の季節と同じように秋もすぐに行っちゃうのかな、なんてぼんやり考える。
「少し、寒いな。」
ぽつりといつものように古墳が呟いた。
相手も同じ事を考えてたことに驚きと嬉しさを感じながら頷く。
「秋がもう終わりに近いのかもね。」
「そうかもな。冬にすぐなってしまうかもしれない。」
「そして春になって……。」
さよならの時
視界の端に映る今は枯れ葉だけの川沿いの桜並木に花が咲くのを想像すると、心がきゅっと締め付けられた。
"離れたくない"
喉まで出かかった言葉を辛うじて飲み込み、その代わり大きな背中にぎゅっと抱き着いた。
ずっと一緒だった優しい匂いを胸一杯吸って心を落ち着けようとするけど、視界がぼやけるのを止められない。
俺はこんなに古墳の事が好きだったんだ。
もっと早く気付いてもっと大事にしていたら
「何も変わらない。」
「この道が無くなっても変わるものは、無い。」
控え目に、けれどしっかりした口調で告げられた言葉がじわじわと俺の中に染み込んでくる。
なんでこんなに こんなに
「……当たり前だろ!」
「ああ。当たり前のことだ。」
声が震えないように気をつけながら俺が頷けば、大きな背中越しに見えた顔も小さな笑みを浮かべながら頷いていた。