BSS95 アンチテーゼ
全く君たち勇者はいつもいつも無謀な旅にでるけれど、自分の生きる理由が定まる前に旅をしたってしょうがないじゃん。まあ、僕は理由云々とか考えないけれど(故に旅もしないけれど)、さ。冒険ていうのは趣味でするものだよ。もしくは化石を見つけに、とかレアな生物をさがしに、とか、仕事としてすること。まちがっても生きる理由を探すための方程式にするものじゃない。
生きる理由も価値もなくたって君たちは生きるしかないんだから。人には生きる義務がある。幸せになる義務がある。生きて幸せに自分がなれない奴が、人に幸せを分けることができると思うのかい?日本には、ほら、いい言葉があるじゃないか。…「ない袖は振れぬ」ってさ。
幸せになるために生きる理由が必要だ?それじゃあ、聞くけれど。幸せにならないで生きる間も人間は死に向かっているわけだよ。死ぬために生きているのが人間の実状だ。よく考えて。何で生きているのだろう、と問いをたてることで生まれる疑問。
なんで死ぬのに生まれてこなきゃ行けないのか?
これはもはや宗教的見地からしかアプローチできないよね。でも君たちは科学世代、哲学世代。インチキ魔法も、あの世のことを語る宗教も、君は信じられないはずだ。
じゃあ、なんでこの問いに答えようと思うのか?君は知らないだろう。この世に「答えのない問い」は存在しない、ということは証明されていないんだ、ということに。まあ嘘と排斥もできないけれど(証明不可イコール嘘、とはいってはいけない。証明不可、はあくまでこの仮定では証明できなかった、というだけだから。別の仮定が持ち込まれればできるかもしれない)、少なくとも答えは科学の範疇ではわからない。
だったらこの問いを入れないと成り立たない定理は、すべて意味のないものだ、と気づくだろう。
ね、証明完了だ。幸せになるのに生きる理由も生きる価値もいらない。そして、幸せになるために生きる義務がある。
まあ、冒険の理由がなくなったのかな、君の。残念だね。生きる義務に忠実に従う意志さえあればここまでこなくとも、君の住んでいた町で十分幸せは見つかったはずだからね…。命がけでやっとここまでこれたのにね。
作品名:BSS95 アンチテーゼ 作家名:フレンドボーイ42