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緑の並木道 2

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相変わらず天気の良い午後。私はこの頃窓辺ばかり見上げてボーッとする事が多くなった。五月病のせいか・気温が上がり、暖かい日が続くせいか。それから気付いたら、教室で密に彼の後姿を見つめるのも忘れそうになるくらい考えている。あの日の出来事、あの後輩の事を。


 奴はある意味、あの中学でとても有名な存在だった。奴が歩くと大勢が廊下を振り返った。その視線をいっせいに受けた奴は何食わぬ顔で堂々とその場を通り過ぎる。ほぼ全ての者が奴の美しさに釘付けになっていた。奴は誰に何と言われても、その生意気な口調と、自己中心的な性格を直そうとはしなかった。

 奴はほとんど一人だった。皆遠くから奴を見ていた。


 私と奴は三年になってたまたま同じ委員会になっただけ。月一回だけ顔を合わせる。楽な委員会なので学年ごとに行動するだけで他学年とは同じ空間にいる、というだけの関係でしかなかった。近いようで、とても遠い。

 私はあの日の奴の言動に腹を立てていた。しかしそれと同時に、奴が私の名前を覚えていたことを密に喜び、また奴に会いたいとどこかで思っていた。それであの並木道を今日も通っていた。緑の並木道は私に今までの安堵感とやすらぎとは別に緊張と密かな期待を感じさせた。ここに来たからといって奴がいるとは限らない。しかし…奴はいた。


 「…また会ったね。琴美先輩♪」

 ベンチに座り、本を読んでいたらしい奴は私に気付いたのか本を閉じ、こっちに振り向き微笑んだ。まるで絵になるその姿に思わず息を飲んだ。

 「偶然ね。ここで何してるの?」

 平然とした態度を装った私に奴は生意気な笑を見せる。

 「見れば分かるでしょ?本を読んでたんだよ」

 納得しながら私は奴を見つめた、呆然と立ち尽くす。

 「先輩さ、よくここの道通るの?」
 「たまにね。私、ここの緑の並木道好きなの。中学の時から」

 奴は相変わらず生意気な笑を見せて、余裕をかまして私を見上げる。分かっていながらも、私はそれに対抗する術を知らない。ふとベンチから立ち上がり、私と並んだ。約十数センチの身長差が妙にリアルに感じる。

 「…ねぇ、先輩、聞かないの?何で俺が先輩の名前知ってたかとか」

 私達は微妙な距離をとって前に進むことも後ろに下がることもせずに見つめ合った。と言っても、そんないい雰囲気になったわけではもちろんない。

 「聞こうと思ってたの。何で?」

 奴は私の落ち着かない反応を見て一方的に楽しんでいる。今もやっぱり生意気な笑を隠そうともせずに私を見つめた。

 「先輩ずっと見てたでしょ?俺のこと。委員会でも一緒だったし。」
 気のせいか奴の微笑みはさっきの生意気な笑から嬉しそうな微笑みに変わっているような気がした。

 「見ていたのは私だけじゃないじゃないでしょ。目立つもん三澤君て」

 言い訳のように聞こえたかもしれないど、真実だ。たしかに私は奴を見ていた。しかし、他の生徒だって、奴、三澤葉流をよく視界に入れていた。
 そう言うと奴は少し意外そうな顔をしたものの、再びこっちを見つめ直して余裕たっぷりの笑を浮かべた。

 「うん、知ってるよ」
 「知ってるってどっちを?」
 「俺が目立つのも、けっこう見られたのも。それよりさ、初めて呼んでくれたね名前♪」

 私は呆然と立ち尽くした。その時、私は奴の笑を何度も見ているのにも関わらず初て、三澤葉流の笑顔を見たような気がしたからだ。
作品名:緑の並木道 2 作家名:日和