夏と健康
私は読みかけの本に栞を挟み、教室のベランダに出る。みんな部活に出ていて、教室には私しかいない。私が所属している茶道部は、毎週火曜と金曜だ。
サッカー部が整備したグラウンドは砂が一粒一粒揃っているかのように綺麗に整備されていて、酷く眩しい。これは土屋の後輩指導の賜物なのだろうか。私は頬杖をついて所在なげにそれを眺めた。真夏の空は馬鹿なくらいに青い。
「今度の試合?いいよ。来なくて」
土屋は私が教室から部活を見学するのを許してくれない。桜井に見られると恥ずかしいから、と言う。反論すれば、ただニヤニヤ笑うだけだ。その笑みの真意を理解できないが、誕生日にあげたミサンガを毎日付けているので執行猶予とする。
海風がスカートの裾を揺らす。全国的に真夏日の傾向だと言うが、ここは海風の恩恵を受けて幾分か涼しい。東北のこの町は、春が遅く来て、夏が短く、秋は駆け足で、冬が長い。
「桜井、ただいま」
部活を終えた土屋が教室に戻ってきた。あちー、とぼやきながら鞄からタオルを取り出し、顔を拭う。汗だくのユニフォームから覗く、日に焼けた長い足。自分の肌の色とあまりにも差があって、なんだか酷く性的な気持ちになった。あわてて目を反らす。
「おかえりなさい」
校庭に目を向けたまま呟けば、後ろから抱きついてきた。首に腕が回る。健康的な肌。
「ちゃんとこっち向いて言ってよ」
「わかったから腕、離して。暑苦しい」
土屋はぶつぶつと文句を言いつつも離してくれた。彼女は素直だ。
「おかえりなさい。手なら繋いでもいいよ」
土屋は無邪気に笑って、指を絡ませる。彼女は素直で可愛い。