Knock,knock,knock!
見覚えのある壁だった。
僕の部屋にあるものだと気付いた。
コン コン
ノックする。
待つ。
『なんだろうこれは……』
僕が疑問に思っていると、コン、と壁が鳴った。
コン コン
ああ、返事が返ってきたなと思った。
隣の人だろうか。
コン コン コン
コン コン コン コン コン コン
ノックの音はだんだんと増えていった。
まるで壁の裏一面に手があるかのように、上下左右目の前と。
段々と怖くなってくる。
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン ――……。
‡ ‡
そこで僕は目を覚ました。
『夢だったのか』
まだ夜明けには程遠い時刻だったが、それから暫く寝付けずに布団の中で寝返りを打っていた。
ふと、目に留まったのは夢に出てきた壁。
ベッドは部屋の隅に置いていたから、枕と身体の右側は壁となっているのだ。
先刻見た夢を思い出し、僕は右側の壁をノックしてみた。
思考の片隅で「やめておけ」と警鐘が響いたが、怖いもの見たさと好奇心には勝てなかった。
僕はゆっくり二回、
コン コン
と壁を叩いた。
夢で聞いたように、くぐもった音が壁とその内側から鳴り響く。
僕は待った。
鼓動が早くなる。じわりと冷や汗も出てきた。
一分、いや五分も待ったかもしれない。
なにもない。
やはり夢は夢だ。
そう思い、しばらくして再び眠りに付いた。
‡ ‡
翌日。
何事もなく家を出て、何事も無く帰宅した。
帰宅後はいつにも増して無気力で、やることもなくぼーっと過ごす。
布団の上でケータイをいじっているとチャイムが鳴った。
玄関を開けると外には男が二人いて、彼らは警察のものだと名乗った。
彼らの話によると、今日僕が家を出た後に隣人が死んでいるのが発見されたのだという。
亡き骸は僕の部屋側の壁に寄り添うように横たわっていたらしい。
「昨夜、なにか不審な物音を耳にしましたか?」
壁と聞いて僕は反射的にノックの夢のことを思い出した。
しかし馬鹿らしいと思い口にはしなかった。
男二人が帰った後、僕は気になってじっと壁を見つめていた。
なんとなく、壁を叩いてみることにした。
昨夜の同じように手の甲を。
コツ
ノックの音は全く響かない。
部屋を隔てる壁がそんな薄いはずも無く、ノックのような軽い音なんて響くはずが無かった。
後日、隣人の死因を耳にした。
突然死だったらしい。
死んだ時刻は僕が目を覚まして、また眠りに付いた少し後だった。
作品名:Knock,knock,knock! 作家名:柳葉さかな