BSS31 あなたの最期に
「君は?」
「わたし?」
「他に誰がいるんだい」
「…」
「名前は」
「わかんない。呼ばれた名前がない」
「そうなの?どうして」
「私には、存在しているのに必要な経過がない」
「幻、ってこと?」
「世界の綻びがたまたま人間型になっただけ」
「壮大すぎやしないか」
「意外に普通の事象。どこでもあり得る事態」
「…名前がないのは呼びづらいな」
「必要?」
「なんか用意してよ。そう呼ぶから」
「…スリット」
「スリット、ちゃんね」
「あなたの名前は」
「僕は、χ(カイ)」
「偽名?」
「まあ、そうだね。本名ないし」
「私と一緒?」
「そういうことだよ」
「ねえ」
「なんだい」
「どうしてここにいるのかしら私は」
「さあ、ねえ…僕が恨まれていて、それを具現化して集めた、とか」
「恨みを買うようなことをしたの」
「ずいぶん昔にね。そのときに迷惑かけた人間に君はうり二つだ」
「じゃあなぜ名前を聞いたの」
「その人より色が全体的に薄いからね。君はどうするつもりだい?別に俺はもうじき死ぬだろうと思うし、別にここで死んだって文句はないんだが、君の創造主の命令はないのか」
「…受信した」
「なんて」
「…切り刻みたい」
「ふーん。いいよ」
「道具がない」
「これかすよ」
「死んでもいいの?」
「だって君の創造主が切り刻むことを所望しているのだろう?ならばいいじゃないか」
「…さみしくないの」
「君は僕のことをどう思っているの」
「…」
「創造主に逆らえないんだろ、感情が」
「…!!!!…」
「どうしたんだ」
「創造主がいるとして、…あなたに誤解をしている可能性は」
「ありうる」
「…あああああ」
「…君の体の半分があの日のあの人になったな…スリットちゃん?大丈夫?」
「…χ」
「なんだい」
「覚えていないのあなたこそ」
「…受信メッセージか」
「そうらしい。続き…あなたのやったことで父は死んだが私は生き残った。そして私は父の本来の姿を知った」
「…知っちゃったんだ」
「そして、今ようやく結論に辿り着いた」
「僕がくたばった後に辿り着いてくれよ」
「…あなたは、父を殺すことでしか私を救うことができる方法がなかった」
「僕には、な」
「父は希代の悪だった」
「だった気もしなくもないが、切った奴が多すぎてわかんなくなっちゃったよ…パルムさん」
「…死んでしまうの?」
「もうここにいたら死ぬよ直に。心配してくれても死んでしまう。…ああ、まったくねえ、むなしすぎやしないかい僕の死ぬ様」
「…あなたの最期に一つだけいわせてほしい」
「なんだ」
「あなたが蝕まれる前に私の剣で斬ってさしあげたい。あなたが戦士として死ねるように」
「…うれしいけど、君も蝕まれないか」
「十分、充実して生きた。少なくともあなたよりは、ね」
「…ふーん」
作品名:BSS31 あなたの最期に 作家名:フレンドボーイ42