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怪盗×名探偵 短編集

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さらば愛した季節よ(Kコ)



 暑さなんてちっとも引いていないというのに、もう季節は八月を終え九月へと足を踏み入れた。
 巷で噂の「八月三十一日の恐怖」というものは都市伝説だと思っている工藤新一ないし江戸川コナンは、久々の登校日に嘆き悲しむ小学生の姿を見て少しだけ笑った。
 夏休みが終わって悲しいんじゃなくて、宿題が終わっていなくて恐ろしい。百人中九十人がそう言って嘆いている。
 宿題は確かに面倒だけど、先に片付けておけばどうってことはない。それがわかるのはきっと何年も先になるんだろう。背中を叩いて励ましてやりたくなった。

 ”自由研究”なんていう懐かしい響きに、もう一度慣らされる日がくるなんて思ってもいなかったと、コナンは苦笑しながら教卓の上に作品を乗せる。
 小さな箱とボールペンがあれば誰でも出来る実験だが、人工的に虹をつくりだす原理は恐らく上級学年じゃないと理解出来ないだろう。それだけだと一瞬で終わってしまったため、クロマトグラフィーの実験もしてみたが、これもまた上級学年向けだったかもしれない。
 担任の小林先生は「江戸川くんは相変わらず凄いのね」と言ってほとんど苦笑交じりだ。コナンも、あはは、すごいでしょ、と誤魔化すようにして笑う。本当に一年生が提出したものであれば、すごいでしょ。そりゃあ。
 バインダーにまとめられた研究結果の”資料”を見て、目を白黒させている小林先生を見上げながら、マズったな、と内心しょぼくれた。工作なら、小学生レベルのものが作れたかもしれない。それか手芸。しかしあえて苦手なものに挑戦してまで、労力を使う必要があるのか? という疑問点もあった。
 だって実際は小学生じゃない。
 少年探偵団の三人は共同制作で立派なオブジェらしきものを作っていたが――なにせそのタイトルが「うなじゅう」なのだから笑える――コナンはそれに参加することはなかった。
 大人の手が加えられては、きっとその作品は純度を失ってしまうだろうから。
 同じ理由で、哀も見ているだけで手を貸すことはなかった。ほんの少しの助言。それだけだ。
 その哀の提出したものといえば、四百字詰めの原稿用紙八十枚に渡る長編小説。こちらもまた失敗だったろう。小林先生がある意味で頭を抱える様が容易に想像できて、悪くもないのに謝りたい気分になる。
 コナンと哀がこのクラスに居る限り、どんな秀才でも決して敵いはしない。クラスの子供達もまた、初めこそ対抗意識があったものの、二ヶ月ほど経過した頃にはもう、敵おうと考えることはなくなっていた。
 子供にありがちな競争がなくなり、クラス全体がひどく落ち着いていく。いつか俺達がいなくなったその時、このクラスは一度秩序を失うんだろうか。
 小学生らしく。とても難しいことだ。
 コナンはいそいそと自分の席に戻ると、机の側面、そのフックに引っかかったランドセルを見つめて思う。捨てようと思って捨てきらなかった思い出の欠片。裏の倉庫にあるだろう古めかしいそれと、新品のこれはデザインも随分変わった。
 大きなガラス張りの窓の向こう、グラウンドのほうを伺えば、九月だというのに日差しは変わらず強い。それでも教室をまとう空気は、七月の終わりとは明らかに違う粘度があった。
 頬に、首筋に触れる空気が少しだけ重い。
 ああ確かに、夏が終わろうとしている。




 阿笠邸で少年探偵団の夏休みおつかれさまパーティーなるものをした後、事務所への帰路を辿るには少しばかり疲れてしまい、蘭に連絡して阿笠邸に泊めてもらうと伝えた。実際はその隣の家でだが、まあさほど変わらないだろう。
 まあなんというか。頭脳は大人だとしても、だ。
 見た目どころか身体そのものはとにかく小学一年生のままなので、夜九時をまわれば眠気はピークに達し、コナンの視界もほとんど霞んでみえなくなってしまうわけで。
 帰宅してなんとかシャワーだけは浴び、ずるずると重い身体をひっぱるようにして自室に向かったところ、入り口のドアからみて正面、ベッドからみて右手に位置するベランダの窓が、これでもかと開け放たれていた。
 その時点で何が起こったのか大方の予想はついていて、霞む視界の中央になんだか白い物体がいるような気がしないでもなかったがそれはもう、美しく無視してやった。
 こんな時にこんなろくでもない男の相手をしている暇はない。
「どうもこんばんは名探偵。やっと涼しくなってきた今日この頃、いかがお過ごしで?」
 相変わらずキザったらしい口調だ。そんな言葉も右から左へと聞き流し、ベッドによじのぼる。新一の頃には考えもしなかったことだが、何でもかんでも大きすぎるのも考えものだった。工藤邸の家具には大体よじのぼらなければならないからだ。
「おっと」
「うわっ」
 一切、まったく、微塵も頼んでいないというのに、どこぞのキザ男は窓の方からほんの数瞬でコナンの元までやってきて、更には身体を持ち上げた。この男が最も得意としている持ち上げ方なのだろうが、不快極まりない。
「お坊ちゃん、大丈夫ですか?」
「なんだそれは、なんのマネだよ」
「今流行りの執事。メイドもいいけど執事も捨てがたいよな。なあなあ、白執事とかどう? 萌えって大事だと」
「お・ろ・せ!」
 全てを言い終わる前に、食い気味に要求した。お前の萌えがどうこういう話は心の底からどうだっていい。そもそも素に近くなっているところを見るに、今日は本来の姿としての用事があるわけでもなさそうだ。それなら一層のこと、早く眠ってしまいたい。
 丁寧に扱われていること自体が非常に不服で、姫抱きのような形になっているのはもっと不服だ。むしろ憤慨に値する。
「なんでこんなちっちぇえ身体にこんな抱き方を要するんだよ。いらねえだろ。っつーか俺はもうベッドにあがってただろ? 『おっと』ってなんだよ、落ちる危険性もないし落ちても痛くねえ。お前の目は節穴かなにかか?」
「うーん、よく喋るお坊ちゃんだ」
 ごっこ遊びはまだ続いているらしい。冷房もつけていない部屋で、どれだけ暑苦しい行動を重ねるつもりだろう。コナンは身体をよじらせ、早く下ろせと全力で意思表示する。それでも男は一切を意に介さず、こともあろうかベッドから離れベランダの方へと移った。
「……おい」
「今日は星が綺麗ですよ」
「遊んでんだろ」
「ご名答。さすが名探偵。」
 それを合図にして、ごっこ遊びが終わる。
 未だに抱き上げられたまま、このキザ男……いや、怪盗キッドは満足気な笑みをコナンに向けた。どちらかというと素に近い表情かもしれない。最近、キッドのポーカーフェイスはコナンにはまったく効かなくなっているようだ。
 いくら抵抗してみても力の差は歴然で、下ろす気も更々ないらしく、キック力を最大限まで高めてくれたり麻酔で象を眠らせたりするあれそれが手元にないこともあり、コナンは仕方なく諦めることを選択した。早く飽きればいいが。
「お。大人しくなった」
「ったりめーだろ。……俺は眠いんだよ」
「本当にお子様だな。そういうとこは可愛いのに」
「んだお前。俺に可愛さを求めてんのか? 別件で捕まる日も近いな」
「中身がそれなら合法じゃねえの」
 そういう返答が欲しいわけではない。
作品名:怪盗×名探偵 短編集 作家名:knm/lily