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怪盗×名探偵 短編集

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だからその線を越える(快新/いざないのボーダーライン続き)



「お前ほんと変わんないよね」
「お前にだけは言われたくない」
 いやそんなことはありませんから、と快斗が否定する前に、新一の視線はふいと逸らされた。
 白い壁、白い天井、清潔感に溢れすぎて逆に胡散臭い病院という場が快斗はあまり好きではない。それはきっと新一も同じなんだろう、その表情はとにかく憂鬱極まりないというものだ。
 なにもかも納得いかない、そんな表情は確かに高校生然としていて、しかしあどけなささえある。そのせいか、妙に懐かしい気分にもさせられた。窓にかかるブラインドの隙間から夕陽が落ち、シマウマのような柄が新一と、快斗に映される。もう夕方だ。
 小さな探偵だった頃が嘘みたいに、工藤新一は工藤新一として生活を続けている。勿論事件に巻き込まれながら。
「新一って、足折ったり足怪我したり、足折ったりするのほんっと好きだよな」
「言っとくけどな、今まで折ったのは一回しかない。あとは全部怪我であって折るのが好きなわけじゃねえ」
「足技使い過ぎだから狙われるんだよ」
「うっせ」
 別にこんな不健全な内容の話がしたいわけではないのだが、そもそも高校生らしい会話を努めようとしてもなかなか難しいものなのだ。快斗にとって新一はまず探偵だったし、新一にとって快斗はまず怪盗である。その大前提がある限り、二人揃ってみたところで出来る会話なんて明らかに限られていた。
 事件の匂いとか犯罪理論とかそういう、美しくないものばかりが互いの間にある。
 快斗は正直そんな話題ばかり振ってしまう自分にうんざりもしていた。なにせ安全圏なもので。
「……なあ新一ぃ」
 ベッドの上、退屈そうに伸ばされた腕に手を伸ばし、慎重に触れてみる。外に出ている割には色は白く、そのすべらかで薄い皮膚の下には、あまり健康的でない血が流れているに違いなかった。コンビニ弁当ばかり食べさせてはいけないな、と、退院後の晩ご飯の献立が頭に浮かんだ。
 あとでメモしておこう。
「甘えた声を出すなよ気味わりぃな」
「お前と同じ声らしいけど?」
「だから気味わりぃんだろ。 ……で?」
 気味悪がりながらもなんだかんだで続きを促すところが新一の優しさであり、そこが小さな時との大きな違いだ。
 あの頃はこちらから優しくしようとすれば、すぐさま獣のような視線でもって怪盗である俺を威嚇していたし、触れるだけなら簡単だが「触れさせるな」と暗に命じられているような気もした。俺が触れようとしたら絶対に許すな。あの目はそう訴える目だ。
 それを考えると凄まじき成長なのかもしれない。
 そういやあの時も足に怪我をしてたよなあ。俺が既のところで助けてやれなかった事件。あの後は当然、華麗な推理で犯人を追い詰めた小さな探偵だが、あの出血量はあと一歩で死に至っていた可能性もある。手を伸ばしてくるくせ、相変わらず「触れさせるんじゃない」と全身で訴えてくるものだから、病院へ連れ込む予定がかなり押した記憶がある。
 あの傷が、痕一つ残っていないのは医学の進歩のお陰かそれとも、新一の驚異的な回復ポテンシャルの高さによるものか。新一の底なしの強さと死にかけまくりながらも事件を掻い潜り、尚且つ解決までしてしまうその姿を思い起こし、格好良さにクラクラしそうになりながら、とりあえず言葉を続けた。
 そういう怪訝そうな顔も嫌いじゃないのだが、出来れば笑顔を向けて欲しいものである。
「新一。怪我治ったらデートしようぜ」
 多分また事件が起こるけど、十分で解決すれば一日五回遭遇しても1時間のロスにもならない。最近はそう考えることにしている。
 非常に建設的かつ合理的。
 IQ400の人間に掛かれば、新一の病的な事件体質も甘い一時へと変わるというものだ。
「却下」
「ありゃ?」
 快斗の提案になんの不満があるのか。先程の憂鬱そうな表情から一変して、今度は鬱陶しそうな顔をしている。字面は似ているのに、憂鬱と鬱陶しいでは意味がまるで違うわけで、ふむ、よくわからない。素直に聞いてみることにした。
「なんで?」
「オメーさっきコナンの時のアレ思い出したろ」
 アレとは、アレだろうか。俺が助けられなかったアレ。
「……………いや? 思い出してないけど?」
「間が長ぇんだよ、バレバレだ」
「いやでも仮に思い出してても別にいいじゃん、悪いことじゃないだろ?」
「お前あんときクソガキとか言ったろ」
「……あー」
 なんでそういうことばかり覚えてるかなこの人は。
 あの時はだって確かにクソガキだったし、それ以外に用いることの出来る形容詞といえば「チビ」「頭でっかち」「変に冷静」「がむしゃら」「無茶苦茶」とかそのようなものばかりなわけで、その中でも一番的を射ているのが「クソガキ」だ。
「あの時はほら、コナンが新一だって知らなくて」
「冗談言ってんじゃねえよ。自慢のポーカーフェイスはどこ行った? ああ?」
「いや……いや、まあ……」
 稀代の名探偵がチンピラのような言い回しをしてくるもので、流石の大怪盗もたじたじである。
 こうして見舞いにきてやっただけなのに何故追い詰められているのか、意味不明だ。それなのに、快斗がそのまま触れっぱなしの手には新一の右手がかぶさっていて、少しだけ力を込められている状態だったりもする。
 前後の会話を無視して、この光景だけ見ればとてつもなくらぶらぶだ。
 前後の会話を無視することも出来ず、且つ込められた力が徐々に強くなっていく、プラス新一の手の甲に青筋が浮かんでいるこの状態は、実際らぶらぶからはほど遠いのだが。
「お前、かなり調子乗ってたよな」
「いやほら? キッドはコナンの敵だったし? 思ってもないことを言わなきゃだめかなみたいな」
「それが虚言かどうかぐらい見抜ける。俺を誰だと思ってんだ?」
「稀代の名探偵、工藤新一様です……」
 まあこういうやり取りは過去百回やっているわけだし。
 まあ血の匂いばかりする話をするよりよほど健全だろうと片付けて、今にも握り潰されそうな手の拘束から逃げることを考えようと思う。
 体型から知能、全てが対等になると、触れることさえ命がけだ。あの頃とはもう、随分と勝手も違う。あの頃の拒否はもう、新一の元には存在しえなかった。
 むしろ触って欲しいなら言ってみろ、とでも言いたげで、やはり工藤新一様は格好よろしいのである。快斗としても、そう在ってくれるほうが心の安寧が図れた。弱気な新一も好きだが、強気な新一はもっと好きだ。
「なにニヤニヤしてんだよ」
「してねーって、してないしてないマジで」
「なんか変なこと考えてたんじゃねえの」
「変なことじゃないですー」
 探偵と怪盗だというのに、平和なものだ。献立を思いつくぐらいなのだから今更かもしれないが。
 あの頃がやっぱり懐かしくなって、ちょっと笑った。


作品名:怪盗×名探偵 短編集 作家名:knm/lily