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怪盗×名探偵 短編集

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いざないのボーダーライン(Kコ)



 コナンが力を振り絞って伸ばした手、その指先、そこに触れるものはない。
 キッドはその指先のほんの数センチ先で身を屈めコナンの様子を伺っているが、コナンも明確な意思を持って触れんとしているわけではなかった。そこに居るから手を伸ばす。触れるのではなく捕まえるために。それはほとんど条件反射に近かった。
 しかしキッドは捕まらない。捕まえられない。
 一度その腕を掴んでみたとして、今の状態では容易に振り落とされてしまう気がした。つい先ほどまでコナンに語りかけていた、キッドの語気は確実に怒りを孕んでいたし、それはコナンにとって受け入れがたい事態でもあった。
 ハートフルな泥棒はこんなところでも、その優しさを存分にさらけ出す。それは自身の弱みになりかねず、そんなものをいとも簡単に探偵に提示してみせるとは、舐められたものだ。
 キッドはまるで、そうすることが当然のように、怒りに満ちながらもコナンを伺っていた。
 正確には、”見守っている”。
 ……当然のように。はて、当然とはなんだろう。怪盗に当然や、必然は在るのだろうか。
「早く、どっか、いけ……」
「うーん。クソガキにそのようなことを言われましてもね?」
 先程から同じようなことしか言わないキッドに、コナンは存分に悪意ある舌打ちをした。
 犯人を追跡中、銃で足を撃たれスケボーから落下。落下地点から地面までの距離は約五メートル強、運悪く全身をコンクリートの地面に打ち付け、身体はほとんど動かない。腕を持ち上げるのも精一杯で、改めて自らの体力の限界を知った。
 高校生の身体であれば、こんなことにはならなかったはずだ。受身を取ることも容易にでき、尚且つ足を使って追跡を続行することだって――……そんなことを今考えたところでもう遅い。
 先日から巷を騒がせていた偽キッド、その犯人は結局のところキッドの模倣犯でしかなく、計画もずさんであった。少しつついて尾行し、逃げ出せば追い詰める。そうすればすぐに捕まえられると踏んでいたのが甘かったのだ。
 あんな素人に銃を持たせたのは、もしくは売りつけたのは誰だ。わけのわからないことをしでかすから素人は素人の域を脱しないと、何故わからないのだろう。
 結局身体は落下場所から少しも動かせないまま、何故か真打ち登場。
 その場所は確かに、キッドが予告状を出したビルの裏側であり、闇に紛れてしまった現状を考えれば、朝が来るまでキッド以外の誰からも見つけてもらえることはないことも明白だった。
 最悪だ。
 本物はなんとも物騒な面持ちで倒れたままのコナンを見下ろした。シルクハットにモノクル、洗練された純白のスーツには、コナンの足元から流れる血液がほんの少しだけ付着している。白に赤はよく映えるが、しかし今はほとんどが闇だ。その染みもどす黒い汚れにしか見えない。
 最悪だ。こんなにも無様な姿を、見られたくなどなかった。
「なんで……いるんだよ、早く消え、ろ」
「俺は紳士なんでね」
「紳士なら紳士らしく……早く」
「どっかいけとか消えろとか、名探偵のボキャブラリーはそんなにも貧相だったのか?」
「っざけんな!」
「一言、助けてって言ってくれりゃあさ」
 誰が。
 もう口を開くことも出来ないほどに意識は朦朧としている。思考は混濁する寸前だ。
 出血量が予想以上に多いのかもしれない。それを悟られる真似はしたくなく、なんとか気取られないように眼光だけは失わんと鋭く睨みつけてみるが、そもそもキッドにそれらの攻撃は効かないのだ。そんなこと、随分と前から証明されていたことだった。
「……お前さ、死ぬのは勝手だけど」
 語気は確かに怒りに満ちているのに、それは何故か、コナンに向けられたものではない。馬鹿だな、という呆れたニュアンスはあるが、それでも怒りの矛先は別に向いていた。
「俺の目の前でだけは許さねえよ?」
 そっと、瞼に掌が添えられる。布越しでも伝わるぬくもりは悔しいほど心を落ち着かせ、ほとんど暗示めいていた。悪いな。そんな声が聞こえる。
 これだから嫌だったんだ。
 怪盗キッドが言う”クソガキ”を助けられなかった、それだけであんな情けない顔をし声をあげるなんて。俺に知られてさぞ不覚だろうに、けれどそれさえどうでもよさそうに、結局キッドは助けてしまうのだ。
 もう手を持ち上げる力は本当に残っていなかった。今ならこの瞼の上にある、美しいてのひらに触れることも出来るはずなのに。つくづくタイミングが悪い。
 こちらからはいくら手を伸ばしても届かないのに、キッドは簡単にコナンへ、当然のように触れることが出来る。触れる、その行為に付随する意味がまるで違うのかもしれない。
 その”意味”を知りたいとはとても思えず――コナンはそこでゆっくり、意識を手放した。
 お前は優しい。悲しいほど優しい。
 俺はそれに返す言葉も持っていないのに。


作品名:怪盗×名探偵 短編集 作家名:knm/lily