連載 たけこさん (終)
9話 落ちないで!
毎年クリスマスが近づいてくると、それなりの行事がある。
岳子がボランティアをしている子育てサロンでも、準備を整えた。
子供たちが母親に連れられて続々と集まってきた。おもちゃで遊び、ボールで遊び、乗り物で動き回っている。
シャンシャンシャン
ここはスタッフたちの腕の見せどころ。
「あれぇ、あの音はなんやぁ」
と耳に手をあてて、子供たちの興味を引きよせる。
シャンシャンシャン
子供たちは急に静かになり、入り口のほうを注視した。
「メリークリスマス!」
突然ドアが開いて、大きな袋を担いで入って来たサンタクロース。
目を見開いて瞳を輝かせている中に、必ず2・3人の幼児は母にしがみついて泣きだす。
初めの頃、黒須三太は困り果て泣きそうな顔をしていたが、今は貫禄が備わってきた。
「ウォッホッホッ、プレゼントがあるぞお」
「さあさあ、その前にサンタさんに聞きたいことのある子、はぁーい」
掃留鶴子はそう言いながら、手を挙げてみせた。
「はあーい、どうやってきたんですか」
「自転車で来ました」
「はあーい、どこからきたんですか」
「家から来ました」
「ぷれぜんとはなんですか」
「知りません」
融通の利かない黒須三太に岳子たちはいらついてきた。
「じゃぁ、プレゼントもらおうねぇ。はい、一列に並んでぇ」
わくわくした表情で一列に並び、プレゼントを受け取ってサンタと握手する子の姿に、母は携帯を向ける。泣いていた子も母にしがみついて顔をそむけたまま、手だけを突き出す。
『あわてんぼうのサンタクロース』を歌って、サンタクロースは去っていった。
83歳になる黒須三太の楽しみの日である。
ボランティアは、高齢者にもちょっとした生きがいを持たせる。
オチのない話でした。
作品名:連載 たけこさん (終) 作家名:健忘真実