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オレンジ色-第二章-

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夕方部




 掃除を二人協力して終わらせて悠一は彼女に連れられて廊下を歩いていた。コの字型した校舎の端から端へと向かっているようだ。

「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は1年3組の大崎莉奈。」彼女―莉奈はそう自己紹介をした。それに続き、「1年1組の渋谷悠一です。」と自己紹介をした。少し遅い自己紹介だった。し終わった後、二人は顔を見合わせくすくすと笑い合ってしまった。


「ねぇ、どこに向かっているの?」そう悠一が尋ねる。無駄に大きな校舎。端から端までは結構時間がかかる。実際、もう五分近く歩いていた。

「私たちの部活を紹介しようと思って。」と莉奈は返答した。悠一は「どんな部活?」と聞いた。莉奈は当然のような質問に対し、んーと呟きながら少し言うのを躊躇していた。あー、と少し声を漏らしてから、数歩歩いたところで、

「非公認の部活でね。夕方部っていうんだ。」

「夕方部?」当然のように悠一は聞き返した。その質問に対し、莉奈は「んー…色々説明する事がありそうだから、実際に部室で説明してもいいかな?」と答えた。この質問がくることは分かっていたのかもしれない。少しの間は莉奈が話すことをまとめていただろう。悠一は「うん。」と答えながらも少しもやもやした気持ちは残っていた。


 コの字型の校舎も最後の長い廊下を歩いていた。四時を過ぎて、右側から日没前の西日が窓から差し込み、歩く二人の後ろに長い影を伸ばしていた。
「あ、ここだよ。」と言い、莉奈はある教室の前で立ち止まった。部室名は書かれていない。非公認と言っていたので、空き教室を勝手に使っているのだろう。外から見た限り、教室の大きさは一般的。西側の教室練は。現在はあまり使われていなかった。

「じゃあ入ろうか。」

 そういうと、彼女は悠一の手を引いて右手で教室の扉を開けた。女の子に手を握られるのは初めてだったので、恥ずかしかったのか悠一は表情がぎこちなくなってしまった。それを悟られないように精一杯振る舞っているように見える。教室の中は西日が差しこんでちゃんとは確認できなかったが、何人かいるのを確認できた。それを確認して、莉奈は、
「お待たせしましたー。あと、新入部員でーす!」と元気な声で言った。ごくごく自然に発された爆弾発言に対して悠一は「えぇぇぇぇっ!」と声を上げてしまった。

 教室は、電気は付いていないが、西日のおかげでそれほど暗くはなかった。彼女の声に反応して一人の男子生徒が近付いてきた。それを確認し、二人も近づいていく。相手の顔が確認できるまで近づくと、その男子生徒はジャケットにつけられたバッチから三年生だということがわかった。

 彼は、背が高かった。170後半はあるだろう。顔立ちもきりっとしていて、まじめな印象を受ける。制服もしっかりと着ていた。

「はじめまして。莉奈が迷惑をかけたようだね。」彼がそう言うと、莉奈がむっとした表情になって反論をしていた。彼は莉奈の扱いに慣れているのがよくわかった。

「あ、僕は渋谷悠一です。」と自己紹介をした。それに対して、彼は「僕は3年の上野俊介。」と簡単に自己紹介をした。で、と一言言い本題に入ろうとした。

「夕方部っていうのは、非公認って言うのは何となく分かるよね?まぁ、勝手に集まって活動してるんだ。」と少し自虐っぽく言った。それは莉奈も言っていた事だった。そこで、莉奈が、「部長!活動を言いましょうよー。」と急かす。悠一を部に引き入れたいと言わんばかりだ。そうだね、と彼は言い、一息置いて、

「この町の噂は知ってるよね?その一番星を見ようっていう目的で活動しているんだ。」

 この町の噂。歩道橋で夕焼け空の日に一番星を見つけることができれば、願い事が叶うという話である。悠一は信じていない訳ではなかった。朝に聞いた女子生徒の話も思い出した。確かにもはや噂の独り歩きのレベルまで達している気がしている。しかし、その噂は現に誰かの願いを叶えていた。悠一もその一人だ。特別な願いはない。だが、何かきっかけがあれば、今の自分を変えたい。そう願っていた。

 悠一は少し下を向いて考えていた。その光景を俊介と莉奈が何も言わず見ていた。その後ろでは他の部員が見守っていた。俊介は一言、「何も強制はしないよ。来たい時に来ればいいし。…どうかな?」と教室内に響いた。

 悠一はもう一度考え始めた。よく考えてみれば高校に入りこんなに人と話すのは初めてだった。顔をあげると、悠一の回答を待っている部員が何人もいる。もしかしたら、友達が出来るかもしれない。そう思うと、答えはおのずと決まっていた。

「あの…よろしくお願いします。」その言葉を聞いて、莉奈はやった、と高い声を上げた。俊介や他のメンバーも歓迎の証として拍手をしていた。パチパチ…という音が教室内に響いた。悠一はこうして夕方部の一員となった。

―――

 二時間程経ち、下校放送も鳴る頃だった。もう夕闇が空を覆い始めていた。悠一はその後莉奈や部長、部員の皆と話をした。趣味や授業、そして部活の事を。

「それじゃあ、そろそろ僕は。」と悠一は一言皆に向けて言った。そうして、机に置いてあったカバンに手をかける。俊介が、

「ああ。今度ちゃんと活動する時は莉奈に迎えに行かせるよ。」と言った。他のみんなもそれじゃあと各々挨拶をした。「僕らも少し話し合いしたら帰るから。」と言うのを聞いて悠一は立ち上がり扉の方へ歩いて行った。扉に右手をかけ、左向きに後ろを振り返り、

「それじゃあ」と一言。向いた先では部員たちがそれぞれ手を振っている。それを確認し、悠一は扉を開け、廊下を左側へ歩いて行った。

 廊下からは、上履きのぺちぺちという音が聞えなくなり、教室は静かになる。教室の机の上に座り、円の形になり部員たちが集まっていた。

「えーっと、莉奈、悠一君の事なんだけど…。」とその輪の中でしか聞こえないような声で俊介が言った。これから悠一の事について話し合うようだった。

「私が教室を覗いたら悠一君が一人で掃除してて。聞いてみたら班のメンバーから無視されてるって言ってて。クラスに友達いないんだと思います。」と莉奈が説明した。

「そうか…。」と一言俊介が言った。外はすっかり暗くなっていて、教室には光が入ることはなかった。

続く…
作品名:オレンジ色-第二章- 作家名:こめっち