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文系少年

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暑さもピークを超え、日も短くなった秋の日。
普段通り誰もいない、夕日でオレンジ色に染まった教室。
ただ、普段どおりじゃなかったのは、彼がこの静かな教室に現れたことだった。

―ガラッ
静寂を破るように、扉を開く音が教室に響き渡る。
「なんだ、まだ誰かいたのか」
驚いたような声が、扉の方から聞こえる。

本を読んでいた僕は、いつもよりは早いけど今日はここまでかな…そう思って、一度伸びをするように顔を上げ、本に栞を挟んだ。
その時。
「何時もこの時間、ここに居るの?」
声と一緒に肩に手をかけられた。
僕は驚いてビクっと肩をすくめると、彼は彼は苦笑しながら肩にかけた手を外し、ゴメンゴメン、と手を振って謝った。
「驚かすつもりじゃなかったんだけど… いつもここで本読んでるの?」
自分を興味深そうに、ウキウキした目で見る彼を見て率直にこう思った。

『うざい』

自分を見る彼の視線を避けるように視線を下に落とすと、彼の視線を振り払うようにして閉じた本を鞄にしまう。
「いや、別に…」
そう言って彼の興味を振り切るように立ち上がる。
せっかく静かに本を読んでいたのに…次は場所を変えようかな。
そんなことを考えながら、彼の明けた扉に向かって足を速めた。
「おい、待って!」
彼の声が背中から聞こえるけど関係ない。
「待てってば!」
彼の手が再び僕の肩を掴んだ。
なんだよ。早く続きを読みたいのに。
「何!?僕に何か用!?」
思わず声を荒げて彼に強く言う。
彼は僕の剣幕に少し驚いたようにしながらも、夕陽で綺麗に赤く染まる、長い髪を弄りながら
「いや、特別に用ってわけじゃないけど…気になるじゃん。永里が何読んでるのか」
じっと見つめてそんなこと言わなくても。このまま、引き下がってはくれないのかな?
でも、関わると面倒くさい気もする…。
そもそもなんで僕の名前を?
いろんな考えが頭をぐるぐる回る。
そんな僕の思考を遮る様に彼の声が頭に響いた。
「そんな、怖い顔しないでよ」
「えっ?」
そんな怖い顔、してたかな?
何か、彼に見透かされる気がしてゾっとした。
気づいてたら、差し出してた。
さっきまで読んでいた、本。
「これ…貸す」
「え?」
戸惑ったような顔をしながらも、嬉しそうに本に手を伸ばす彼。
本を持つ手が震える。
威圧感。
そして震える手から、フッと本の重さが抜ける。
「ありがと」
彼は僕の本を脇に抱えるように持つと、笑顔を向けた。
また、背筋がゾクッとする。
「あの…」
なかなか言葉が出ない。
「ん?」
優しい目で見つめる彼。
なんでそんなに人を見つめられるの?
「あの…名前…」
「名前?」
彼は困ったような顔で笑うと、少し寂しそうな動きをして見せて
「同じクラスの日比谷だよ。覚えといてよね」
嘘!?同じクラスって…僕は、彼のことを全く知らない。
いや、名前はもちろん、出欠の時に呼ばれるから知ってるけど、それだけだった。
急に恥ずかしくなって顔が、耳の先まで真っ赤になる。
ダメだ、隠せない…いや、隠さなくたって構わないんだろうけど…
いろんな恥ずかしいが自分の心に押し寄せる。
「ごめんっ、日比谷君!また、明日!」
逃げるように教室を駆け出す。
誰もいなくなった教室で彼は、微笑みながらしばらく彼の走り去った扉を眺めていた。
作品名:文系少年 作家名:稲葉玲恩