小説:『整備作業』
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登場キャラクター
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阿古崎陣内(あこざき・じんない)
:父の整備工場を手伝う少年。宇宙船操舵手にあこがれている。
阿古先徹宵(あこざき・てっしょう)
:陣内の父、寡黙な純日系頑固親父。整備の腕はピカイチ。
無重力整備作業中
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膝を軽く曲げて、足の親指に力を入れる。
地面を蹴るというより、押し出すように足を伸ばす。力が足りないと目的の
位置までたどり着けず、力が強すぎると到着時に反射ダメージが残る。
船の側壁が近づく、左手を伸ばして船外装甲に触れて、ゆっくり衝撃を流し
ながら船外装甲に張り付く。ベルトにつけた作業用固定吸盤を装甲に貼り付け、
位置を固定する。
「結構やられてんな、こりゃ」
宇宙啄木鳥にでもやられたのか、船の右側側面外装甲に数え切れない程の穴
が無数に開いている。外壁装甲は交換すればいいが、穴の深さや数を見る限り
損傷が内壁のセンサー経路や内部制御機器にまで達している可能性もある。
損傷具合によっては最悪ここら一面の外壁をすべてはがして内壁総張替えをせ
ざるを得ない。
こめかみの通信ポートを開く。
『親父、こちら陣内。船壁損傷箇所確認。損傷箇所情報転送します』
『わかった』
親子でも、夫婦ですら必要最低限な言葉しか言わない親父。
転送した情報データを受け取るが早いか、さっさとポートを閉じて損害状況
の分析をはじめた。
『内壁三箇所に損傷がある、内部制御機器には達していない。外壁を剥がして
作業にはいれ、位置は転送する』
『了解』
親父には、どれほど軽微な損傷だろうと、見る影もない損傷だろうと、果て
はどう整備するかもわからない異星機関船だろうと、恐ろしいほど正確にその
損傷状態や整備すべき点を見抜く目を持っている。
一人で一代にしてこの整備工場を興し、この競争の激しい惑星コーベ中央ス
テーションで、整備の腕一本で生き抜いてきた。
お袋はいつも口をすっぱくして言う、父さんが心血を捧げて育てあげた会社
なんだからお前がちゃんと守っていけ、と。親父も口には出さないながらも、
同じことを考えてるんだろうと思う。
けど。
俺には、もっとやりたいことがある。
時系列と舞台
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惑星コーベにて。
解説
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父の整備手伝いをしながらも、己の夢に想いをはせる陣内少年。