人間屑シリーズ
五日目
ハルトさんが帰った後、俺は先輩によって非童貞になった。
思ったほど気持ちのイイものではなかったが、先輩が足を絡める度に俺のわき腹に血が付着して、そこに奇妙な縞模様が描かれていった。それを見た先輩が「野生動物みたい」と言って微笑んだ事だけが、印象に残っている。
ベッドに朝日が差し込み目を覚ます。先輩は既に起きていて、窓から街並みを見下ろしていた。そんな先輩の後姿を見ているとなんだか無性に悲しくなってしまい、俺はまた泣いてしまった。殺されると、華々しく銃殺される事をあんなにも喜んでいたのに。
「先輩、俺あと三日で死ぬんですよ」
ぼそりと呟いた。
「じゃあ私も一緒に死ぬよ」
そう言って先輩はまた笑う。ああ、この人は怒るとか泣くとかそういう感情が昔から無い人だった。
「先輩、俺、冗談とかじゃないんです」
「うん」
「本当に、三日後に死ぬんです。いや、殺されるんですよ」
「うん」
ただニコニコと頷くだけの先輩に俺は理解してほしくて、今まで送られてきた謎のメールを見せた。中には結構なニュースにとして取り上げられた事件の被害者の名前もあって、先輩はすぐに状況を理解したようだった。
「でも、君は死にたかったんでしょ」
「そうです」
「じゃあイイじゃない」
先輩がサラリと吐き捨てる。
「気持ちが変わったんですよ。親父の死や、母さんや弟の事とか……先輩とかハルトさんとか」
「その程度で気持ちが変わるなんて、はじめっから死にたくなかったのね」
「……そうなんでしょうか」
「そうだよ。君は死にたくなかった。ただ、安易な死というものに逃げたかっただけなんだよ」
「…………」
「そして、ここにきて怖気づいた」
先輩の切れ長の瞳が冷たく俺を見つめる。俺には何も答える事なんて出来なくて、先輩の瞳から目をそらした。
「バカみたい」
「……はい」
全くもってその通りだった。事実馬鹿だったのだ、俺は。
「でも、死にたくないのに死ぬのはねぇ。メールしてみたら? やっぱ取り消して下さいって」
先輩の提案に急激に視界がクリアになったような感覚が襲った。そうだ! 何とか取り消して貰えないだろうか?
「そ、そーですよね!」
そう言いながら俺は急ぎ携帯を開き、メールを作成し送信した。
『気が変わったので、キャンセル出来ませんか?』
自分でもアホさの際立つメールだと思った。しかし、もう何をどう打っていいものかも分からない。