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クラスメートの女の子と連れ添って、買い物にいく。ノースリーブから現れる腕がかなりドキドキさせる。この子はクラスのマドンナ的存在で、僕はこの子が好きだからこそ一緒にいる。
　…あの企業の社長の娘であるということも気にしない。

　僕の父さんはあの会社に勤めていた。商社マンとして朝も夜も毎日毎日、お疲れさん、といいたくなるような仕事ぶりだった。母も母で別の会社で重役ではあったから、別に父は働く必要があるのか、と聞かれると不明ではあったが、少なくとも家事は僕がこなせたし、そういう意味で僕は別に不足は感じていなかった。それどころか、僕は一生懸命汗を流して働く父の姿を尊敬していたくらいだ。
　そんな中、父はある日、取り引きしている企業と、自分の企業の社長が、闇取り引きしている物品をみて愕然とした。その当時はまだ僕は小学生だったから、「のんじゃいけないおくすり」とか何とか言われて、「そんなおくすりをなんでつくるんだろ？」と純粋に疑問に思った時期もあったが、いま、父のファイルをみたから分かる。
　リゼルギン酸ジエチルアミド（lysergic asid diethylamide）。麦角から分離され、服用すると幻想・幻覚が顕著。脳内の神経伝達物質セロトニンの作用を押さえる。そしてその通称は、その英名の頭文字をとって、ＬＳＤという。
　まさか麻薬取引をしている会社に勤めていたなど、潔白を重んじる父としては、許せないことだったに違いない。彼は正義感強く、たとえはものを持った相手でも怯えることなく戦おうとするような人だった。
　彼は内部告発しようとしていた。会社に入られなくはなるが別にそれが悪いことではないだろうと、考えていた。再就職する先も何とか当てが見つかっていたからだ。だが。

　父は殺された。というより消された。

　あのときの社長の顔は忘れられない。「言い社員でした。亡くなるとは、まったく…」とか言いつつ、隠れて笑っていたあの社長。事故死に装って殺すというのはこの現在でも通用するテクニックなのか。
　僕は、そんなことがあってあの社長だけは許せない、というのがあった。今にみていろという気分でいた。
　しかし、しかしねえ、あの気持ち悪いが間が得るみたいな顔した社長から、顔・スタイル、どこをとっても非の打ち所のない白鳥のようなあの子が産まれるとは思わないじゃないか。

　僕は彼女と歩きながら、そんなことを考えている。
　「…ねえ、トウヤくん、どうしたの？さっきからずっと黙りこくって」
　「あ、ごめんごめん。いったいなにを話せばいいものか悩んじゃってさ」
　バレているんだろうなあ。そう思いながらそれでもごまかすと、
　「そっちが緊張するとこっちも気まずいって」
　と言いながら、目でおもいっきり「気づいてますよ」というメッセージを送ってくる。

　「ねえ、やっぱりまだ考えているの」
　「なにを」
　「うちを買収すること」
　持っていたコーヒーを落としかけるところだった。
　「もう少しオブラートに包んでくれないか？僕は楽しいデートの最中までそれを考えているとでも思うのか」
　「だってあんなに黙っているんだから」
　「お父さんが好きって言うならあきらめるよ」
　「やっぱりうちの父親が原因か。…まあ実際、あんな会社買わなくていいと思うけどなあ」
　「なんで」
　「一代限りでつぶれるって。私は継ぐつもりないもん。もし継いだら株全部あげるつもりではあるけど」
　「…リナちゃん、やめようその話は。その話を続ければ確実に君を傷つける」
　「だって」　
　「男としてかわいい女の子にフられるのはイヤなんだよ」
　「…だって、ある提案があるんだもの」
　「なにさ」