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製作に関する報告書

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彼らにとっては何故私がそういうことにこだわるのか最後まで理解できなかったようですが、私には私の理屈があります。
 
『このままメモオフという作品がおかしなことになって、またぞろ笑いものになるようなことがあったら、作品にとって哀れなことではないか』
 
私はそう思っていました。それは私が道半ばで去りましたが、シナリオ担当としてメモオフに関わった私の本当の気持であるのです。そういう情感、心根というものをついにFDJの市川氏は理解しませんでした。というか、それだけの能力も感受性も無かったのでしょう。そういうものを求めるほうが愚か。一方で、私は柴田氏たちのことを私としても見極めたく思っていました。いったい何を考え、何故、傲慢な態度をとっていたのか。何を根拠にそういうことをするのか。その自信はどこから来るのか。彼らは最初から5pb.のタイムリミットのことを知っていたのか。知っていて作品製作を遅らせるような活動をしていたのか。だとすれば、それは単なる馬鹿ということになると思いますが。あるいは、ここにいたって追い詰められたことで何か心境的な変化があったのか。どうしてもそのことは理解しておきたかったのです。そしてそこでFDJの市川氏から聞いた話は、ちょっと信じられないほど頓馬なものでした。
 
?5pb.としては、現時点(2008年5月の時点)で大赤字である。それは、ゲーム部門も音楽部門も同じである。
?年末からリリースしているゲーム商品はことごとく全てが失敗である。
?今までに累積された赤字を黒字に持っていくことは今の段階では不可能である。
?今期、上半期に出した赤字についても、後期でこれを穴埋めすることは厳しい。
?後期に、Lの季節とメモオフの二枚看板が出る。ある程度は受注が見込まれる。
?ただ、Lの季節については受注が今のところ一万本程度で、これ以上の伸びも見込まれないため、赤字になる可能性が高い。
?メモリーズオフについては仮にこれが三万本出たとしても、今期の赤字の補填には至らない。
?家賃や人件費が高すぎる。
?社長の志倉千代丸は、『自分には経営センスがない』と居直って公言している。
?俺たちは意地を見せられればそれでいい。
 
私は柴田氏にも訊ねました。彼には別の質問を用意させてもらいました。彼からの返答はこういうものでした。
 
?自分たちははじめから5pb.にデッドラインがあることを知っていた。その上で行動をしていた。
?シナリオの流用、プロットの使いまわしについては、FDJの市川との間で話がついていると自分は思っていた。
?自分はメモオフのためにこの会社にいるのであって、それが無くなればこんなところ(5pb.ですね)などにいる必要などない。
 
なんということを言うのか、と私も驚いたものです。全員が無責任。全員が責任を取りたくない。誰一人して、
 
『俺に任せておけ』
 
という人はいない。でも金と名誉は欲しい。調子のいいときはクリエイター。都合が悪くなるとサラリーマン。功績は自分で独り占め。けれど不都合が起こると途端に、
 
『立場の弱い雇われ人』
 
を演じて上司に泣きついて言い逃れをはかる。それが、5pb.スタッフの基本スタンス。それについては個人のポリシーですから、私もどうこう言うつもりはありません。ただ、そういう人間を普通、卑劣漢というのではありませんか。では。私は訊ねました。これは柴田氏にもそうですが、市川氏にむけた質問でした。
 
『それでは、会社はどうなるのですか』
 
市川氏の答えは要領を得ないものでした。
 
『ゲーム部門を始めて日が浅いので、支援を打ち切られることはないと思う』
『ただ、切られないと思うことに根拠は無い』
 
結局、何も分からない。分からないけれど、俺たちがいないと現場は回っていかないのだから、上も俺たちに気を遣うはずだというのがFDJの市川氏の意見でした。私は、
 
『この人は、頭が狂ってるな』
 
と思いましたが、そのことは申し上げませんでした。
 
『三期連続赤字でも、ゲーム部門を始めたのはまだ日が浅いので、そのあたりを上は考慮するだろう』
 
ということでしたがだとすれば、5pb.がデッドラインぎりぎりで次々に新規事業を立ち上げれば、それでTYOという親会社は納得して延々と何年でも支援を続けるのか。市川氏はこういうことも同じ時に言っておりました。
 
『上の連中は、抜くものはどんどん抜いていくから(金をシビアに吸い上げるということでしょう)』
 
そんなに金ばかりを吸い上げるシビアな連中が、赤字会社を放っておいてくれるのか。市川氏の言うことは彼自身気がついていないようですが、とにかく滅茶苦茶で、矛盾だらけのものでした。何の説得力もない寝言同然の呟きだったのです。
 
それにしても。私は思うのです。資本金一千万円しかない5pb.が資本金一億のKIDとおなじことをしてもうまくいくのか、と。と、いうか、体力的にそのようなことは不可能なのではないか。簡単な計算ですが、5pb.はKIDに比べて十分の一の体力しかないのですから、同じやり方を踏襲すれば、会社の資金は十分の一の年月で吹っ飛んでしまう。しかもメモオフというタイトルは一度死んでしまっている。もはや体力が残っていない。
  
『六百万円ほど広報に注いで……』
 
というようなことも市川氏は言っておられましたが、それだけの宣伝費にどれだけの効果があるのかは誰も語ってはくれませんでした。一万本しか売れない作品で六百万円を宣伝費に使うとなれば、六千八百円のゲーム価格のうち六百円が広告費ということになる。それでは利益が出ない。
 
『それだけしないと売れないから』
 
とも、市川氏は言っておりましたが、私は、思うのです。
 
『本当に良い作品は宣伝なんか要らない』
 
と。宣伝が必要な作品は、すでに、その時点で終わっている。あるいはどうせ人の金ということでいい加減な気持だったのか。それはそれで結構ですが、誰かにいい加減に接する人間は、その相手からもいい加減に扱われることになるのです(ただ、この件に関しては私は今では別の意見ももっているのです。つまり、市川氏はわざと高額の広告費をつぎ込んでいたのではないかということです。そうやって業者からバックマージンを貰う。会社の金を横領していたのではないか、そんなことを思うのです)。
  
『もう二度とお会いすることはないですが、皆様頑張ってください』
 
私はそう言って市川氏たちと別れてきました。別れ際にFDJの市川氏は、会社戸口そばで笑って話をしている若い末端社員を見て、
 
「あいつらなんか何にもわかってないんだ(だから笑ってられるんだ)』
 
と嘲るように言っていましたが……何という言い草であるのか。末端にはよらしむべし、知らしむべからずということなのか。けれど、末端の社員にも生活がある。そういうことを市川氏はまったく無視する。本当にこの男は心根の悪い人だと私などは思うのです。
 
作品名:製作に関する報告書 作家名:黄支亮