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製作に関する報告書

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私は、グラフィックの相澤氏達と面談が出来なかったのは残念でしたが、とにかく、こちらの主張は向こうに伝えましたから、そこで5pb.を去ることにしました。ただ、ここまで話がこじれて物事がうまく行くということはないですから私はこう申し上げました。
 
『時間をおきます。そちらでよく話をされて、それで、私を使うか使わないかを考えてください』
 
私はメモオフ6から外れることを決意しておりました。ほかに方法はないですから。ですが、私も甘いのでしょう。もしかしたらという希望も持っていたのです。そして希望はいつものように裏切られるのですが。私が去るのを柴田氏はせせら笑っておりました。私は彼のことを癌だと思っていましたが、それは彼も同じだったのでしょう。
 
『これでFDJの市川も追い落とせるし、俺が名実ともにプロデューサー』
 
柴田氏は、そのようなこすっからい野望の成就に満足していたのではありませんか。まあそれはそれで結構なことでありますが、だとすれば、それは、
 
『何度でも会社を潰すのが男の真骨頂』
 
という彼の信念とは相反することではなかったのか。意味のわからない人は最後まで意味のわからないことをするものです。いずれにせよ私はその場を引き取りました。
 
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そして、数日後、こちらから電話をかけることにしたのです。これも今にして思えばということですが、普通はそういうことはプロジェクトリーダーであるFDJの市川氏のほうから、
 
『かくかくしかじかでこうなった』
 
と連絡をくれるものだと思うのですが、彼は一切そういうことをしませんでした。こちらが望む、望まぬに関わらず、連絡というものは常にしなければならない。自分がどう思っていて、現状どうなっているのか。そういうことをトップは下に伝える義務がある。そうでないと組織は回っていきませんから。ただ私は人が良いのでしょう、まだ、このときはFDJの市川氏には同情の余地はあると考えておりました。ですから、一縷の望みがあるのではないかと期待もしていたのです。ですが、それは間違いでした。私は訊ねました。
 
『皆さんの結論はでましたか?』
 
と、すると、市川氏はこう答えました。
 
『今、説得している。柴田を外して、ディレクターの松本をチーフに昇格させようという案もある』
 
私は思いました。この男は心底使えない男だと。そうではなくて、
 
『もう、柴田は外したから』
 
というのがスジだと思うのです。私を使うのであれば、そのような決定はすでに私が電話をかける前になされてなければならない。時間はあったわけですからそれぐらいの結論は出されなければならない。あるいは、
 
『柴田で行く。君に外れてもらう』
 
でも構いません。どちらでもいいのです。けれどそのような普通の判断ができない。現場に指図することがFDJの市川氏にはできない。それだけの能力も意思も市川氏にはないのです。私は思いました。これは、口先だけだ、と。結局は、
 
『案はあったけれど、結局、元の通り柴田に戻す(案は市川氏の頭の中にあるだけで、それを現場に伝えることすら彼にはできなかったでしょう)。あいつがいないと作品ができないから。と、いうことで、君が我慢してくれればいいから』
 
と、そういうことだったのでしょう。それは虚言を弄するということでした。私はですから、こう訊ねました。
 
『グラフィックチーフの相澤氏はどういっておられますか?』
 
と。すると、こういう答えが返ってきました。
 
『おまえがそんなに言うなら、やってやってもいいと言っている』
 
何という言い草であるのか。三十七年積み上げた人物の言葉が、
 
『そんなに言うのであればやってやってもいい』
 
その『おまえ』が上司であるFDJの市川氏に向けられたみのであるのか、はたまた私に向けられたものであるのかは分かりませんし、そのようなことはどうでもいいことでした。ただ、そのような態度、傲慢で不快な態度は私に対しては許されるのでしょうが、作品を私達に作らせている『作品の神様』に対しては絶対に許されるものではない。ですから、私は思ったのです。
 
『ああ、この作品はもうダメだ。スタッフ全員が腐っていて、であるから、メモオフという作品はならない。なったとしても、ろくなことにならない』
 
繰り返しますが私はその当時、前出した5pb.とTYOの関係、三年以内に実績が出なければ支援を打ち切るという取り決めも、また、すでに二期半連続で赤字であるということも本当に知りませんでした。ですが、これは作品が成立してもいいことはない。これは負け戦、それも全滅戦になってしまうということを感じていました。ですから、もうその場で持ちこたえるという意思も気力もなくなってしまいました。
 
彼らは彼らの思う通り、つまり、
 
『倒産やリストラはかっこいい。どれだけ人生で会社を潰せるかが男の器量』
 
というあまり普通ではない信念の通りに自分たちの人生を歩もうとしている。そして私は、それに付き合うつもりはありませんでした。卑しい生き方をしたければお一人で勝手にどうぞ、といったところでした。ですから私は、
 
『それではもうダメです。ここでお別れです』
 
とFDJの市川氏に申し上げました。市川氏は、私に去られると自分の仕事が増えるということで、億劫に思ったのでしょう。ですから、
  
『話し合おう』
 
というようなことを言っておられましたが、結局彼の『話し合おう』は私に折れろ、柴田氏たちに頭を下げろというものでしかありませんでした。それはそれで構いませんが、私は自分のことを考えていたわけではありませんでした。
 
『スタッフに愛されない作品がお客に愛されるはずがない』
 
それは自明のことでありました。柴田氏は私のことを憎んでいましたし、おそらく嫉妬もしていたでしょう。彼は何も作り出せず、何も生み出せませんから。彼にとっては、どんな頓馬であっても、自分で何かをやっていける人間はそれだけで不愉快、ねたましかったのだと思います(そういう意味では柴田氏は、本質的に輿水氏に対しても憎しみの念を抱いていたと思います。輿水氏は絵が描けますから。一方、グラフィックの相澤氏も柴田氏には侮蔑の感情を持ち、輿水氏に対しても内心でいらついている。彼らの間には基本的に友愛はなりたたなかったのだと思います)。そして私も彼らのことはどうしても好きになれない。
結局のところ憎んでいる相手のシナリオに自分の絵を乗せていくもそんな作業が楽しいはずもなく、であれば、作品は影を帯びたものになるでしょう。ひっきょう、作り手が幸せでない作品は誰も幸せにしないのです。ですが、FDJの市川氏はそのことを理解していませんでした。
 
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私は、FDJの市川氏がいったい何の目的で、どういういわれでゲーム業界に入ってきたのか分かりませんし、知る由もないのですが、彼は(柴田氏やほかのスタッフも同じでしょう)何かを作るということの根源的な意味を理解していませんでした。かといって、
 
『ゲームなんかどうでもいい。金さえ儲ければいいんだよ』
 
作品名:製作に関する報告書 作家名:黄支亮