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ささいな誤解とエトセトラ。

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4.




前夜の雨が濁りを洗い流したように、澄んだ晴天の一日が暮れようとしていた。
ツナは重い足取りで土手上の道に出た。

どうしよう、怒られる。

頭の中はそのことでいっぱいだ。
これが、ツナの、「山本の話」に対する結論だった。
もちろん誤解したのは山本の勝手だが、そのあと一週間も事実を伏せ、のうのうと親切にしてもらっていたのである。だまされた、と腹を立てられる可能性は大いにある。
「だまされたとおもって怒ってんのかもー! 明日すげー怒られんのかも、どーしよーっ!」
電話を終えて部屋に戻ってからリボーンにも泣きついたのだ。
しかし、リボーンは、
「呼び出されたのか」
と目をきらりと光らせただけで、全然なんの役にも立ちそうになかった。

というわけで、ツナは、顔を上げる余裕もなく、どんよりとうつむいて歩いていたのである。
五回目のため息をついた耳に、伸びやかな声が届いた。
「ツナー! こっちー!」
「……あ、」
山本だ。ついに来た。
ぎく、と顔を上げて。

息を呑んだ。

視界いっぱいに、金色の夕日が広がっていた。
河の行く手に黄金の太陽が沈みかけているのだ。
前日の雨で河の水量は増し、夕日はいつもよりうつくしく照り映えていた。水面のさざなみ、ひとつひとつが揺れ動き立ち上がるたびに、その三角の波頭が夕日を反射し、きらきらと光る。無数の輝きが踊る、その川面を背景に、土手の途中に立った山本が片手を上げていた。
「ツナ!」
わらっている。
夕焼けと山本の笑顔が、底抜けに明るかったので、一瞬、心配はかき消えた。
ツナは笑い返して、土手を斜めに下りた。山本は土手の半ばの、道からは目に付きにくい場所に腰を下ろしてツナを待っていたようだった。
「ごめん山本、お待たせ」
「そんな待ってねーぜ?」
うながされて並んで腰をおろす。しばらく、二人は無言で美しい日没を眺めていた。
肘がときおりふれあった。少しずつ日が傾いていくなか、あまりにもきれいで、あまりにも満ち足りていて、ツナは、――完全に用件を忘れていた。
そのため、口火を切ったのは、山本だった。
「……さっきさー」
山本は、ラベンダー色にかわりゆく空と川面を見渡しながら、屈託なく言い出した。
「ツナが来たとき。金色できらきらしてて、すっげ、キレーだった」
「え? ああ、河、きれいだったね」
「ん、河じゃなくて」
山本は軽く笑ってツナを見る。
「ツナが」
「え?」
「ツナがキレーだった」


はは、なに言ってんの山本、冗談キツいよ。ふきだしかけたツナは、時ここに至ってやっとおもいだしたのである。
なんのために今日、ここに来たのかを。
(………そ、そうだった……!)
山本は、やっぱりツナが女の子だと勘違いしたままなのだ。そのせいで、気を使って、ほめてくれているのに違いない。そんな無理して――オレがキレーなわけねーのに、とツナは心苦しくなり、あわあわとなった。オレがほんとのことを言えなかったばっかりに。
「や、山本、ごめん、オレ今日大事な話があったのに忘れてた…!」
「オレも話あるんだ。ツナ、先に言えよ」
「い、いいよ、あの、先に山本どうぞ」
小心者のツナの言葉に、山本はまばたきし、
「そっか? オレは後でも先でもいいけど、――ただ時間かかるかもしんね―から」
「いいよいい、全然いい。なに、山本の話って?」
慌てて笑って見せると、山本は、うん、と照れくさそうに笑った。
「オレ、ツナにあやまりてーんだ」

「え!? 山本も!?」
「え?」
「あーいやいやこっちの話、な、なんで?」
ツナがぶんぶん手を振ると、山本は、「そーか?」といぶかしそうな顔をした。そのあと、中断された話の糸を探るように少し考え込んでから、また決心したように口を開いた。
「オレ、一週間前に、ツナが女の子だって、きいただろ?」
「………あー、えーと、うん?」
「オレそんとき、親友は親友だって約束したよな」
「えーと、うん」
「けどオレ、約束、……守れそうにない」
「………え?」
ツナはきょとんとした。山本は、草の間から石ころを拾い上げ河に投げた。きれいな放物線を描いて、石は、もう暗くなった川面に白い波しぶきを立てた。その行方を、なんということなく目で追ったツナは、山本の、生真面目な口調を耳にして隣に目を戻した。山本は、長い足を草むらに投げ出すようにして暮れなずむ空を見上げていた。
「気にしてねーつもりだったんだけど……、あれからツナ見ると、あー女の子なんだなーっておもって、不自然になっちまうし」
「そ、それはあの、山本」
「……それだけじゃなくて、ツナが獄寺とずっと一緒にいるの見ると、なんつーかこう、いらいらして……」
「………? ごくでらくん?」
「心狭いよな。やきもちなんか」

「………」
ツナは黙って山本の横顔を見ていた。
そのとき、山本が言った意味が全然わからなかったからだった。心狭い、まではわかったが、その後がよくわからなかった。オレの耳がおかしくなったのか? と、小首をかしげる。やきもちって言ったのか? 餅を焼くことか? 
と、
「ツナ、オレ……」
山本はツナに向き直った。
スポーツマンらしいきりりとした精悍な顔で、草むらに手をついて、ツナをのぞきこんだ。
「オレ、ツナを、好きになったみたいだ」

――今度こそ、ツナは、山本が英語をしゃべったのだとおもった。