ひどいことしたい
泣いてるのに口の中指突っ込んで舌ひっぱってやりたいまぶたにせんたくばさみもいいねみぞおちに一発きめても良いんだよああそれとも髪の毛引っ張って床にはいつくばらせようか
(とは思わないけれど、)
目の前の女を見た
ふにゃりと笑っている
ほっぺたが赤い
寒いのだ
俺はそれを見て
(少しだけいじわるな心がしずかになった)
てのひらをおもいっきりひろげて、天にかざした
すきまからたくさんの星が見える
(俺はこの星のなまえをしらない)
お前は
俺がひどいにんげんだと知らない
このままここでくびをしめてもいい足を引っ掛けてもいいくさむらに押し倒して足を縛って放置してもいいあの空き地の納屋に閉じ込めてもいいほっぺたをおもいっきりひっぱたいてもいい
でもしない
「さむいねえ」
ぴんとはりつめた空気の中ぼんやりしたこえがきこえた
俺は立ち止まってみた
「さむいね」
もう一度聞こえてきた
ひどいことしたいひどいことしたいひどいことしたい
でもしない
「はやく帰ろう」
やっと出たのはそれだけ
それ以上ことばが出なかった
もう一度歩き始めた
となりをそっとみた
やわらかそうなほっぺたをつまんでみたくなった
(ああ)
俺はこのよわっちい生き物が好きなんだ!
「北極星」
するどい声でふわふわしたちいさな生き物が云った