76億年の恋
「あと76億年で地球はなくなっちゃうんだって」
手のひらを太陽に、まるで童謡のようなしぐさをしながら谷崎は云った。太陽がまぶしい。肌がじりじりと音を立ててこげているような錯覚に陥る。あくまで錯覚だが。どうして初夏の陽気というものはこれほどまでに人類を苦しめるのか。本格的に夏が始まったときのほうが、幾分かましのように感じる。
「輪廻転生も76億年でおわるんだね」
「おまえ、そういうの信じるクチ?」
「日本人の大半がうっすらと信じてるんじゃない。仏教って、意外と僕たちの思考形態に影響を与えてると思うよ」
返す言葉をもたなかった。というか正直、暑さで思考が停止している。
「ホラ、今井さんだ」
谷崎が指差す先に暎子が見えた。誰か友達と下校しているようだ。
「かわいいね」
これに関しては、ホントノーコメントでいるべきだろう。
「君たちの恋も76億年でおしまいだ」
何を知っているのか、この男は。