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つやつやネムリー
つやつやネムリー
novelistID. 1618
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僕のとびっきりの天気。

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「もう別れましょう」
今にも泣きそうな細い声。
いや既に彼女は泣いているに違いない。
「始めから上手くいきっこなかったのよ」
彼女は絞り出すような声で叫ぶ。
僕は彼女の姿を捉えようと、必死になって天井を見上げている。
しかし一段と激しくなった雨が
めったやたらと顔に打ちつけるばかりで、
僕は彼女の姿をうまく捉える事が出来ない。
「障害は多くても、努力すれば僕たち、うまくやっていける筈だよ!
お願いだから、下に降りてきておくれよ」
天井に向かって、僕は懸命に叫ぶ。
しかしその声は、雷鳴であっけなくかき消されてしまう。



1時間後、床にたまった雨水を
僕は懸命になって屋外へと掻き出している。
粉々になった皿、ひっくり返った椅子、倒れたクローゼット。
部屋の中は、壊滅的な有様。
しかし、割れた窓の外には、雲一つない澄み切った青空。
そこには穏やかな午後がゆっくりと流れている。
でっぷりとした犬を連れた老婦人が通りかかり、
好奇な目を僕の家に投げかけている。


「私みたいな雨雲、あなたいつか必ず嫌いになるわ」
静かに、独り言のように彼女は呟く。
水蒸気でできた、消えてしまいそうな彼女の身体。
さらさらと霞のようにうつろう、定まる事のない輪郭。
その身体をソファに沈めて、
彼女は自分の運命に押しつぶされそうになっている。
僕を見つめる彼女の瞳の奥で、
雷がチリチリと今にも消えそうに光るのが見える。
「キミは僕にとって、いつまでもとびっきりの天気さ」
水気を含んで美しく光る彼女の頬に
僕はそっと接吻をする。

たちまち彼女の目の中に、
さっきまでの雨水とは明らかに違うものが溢れていく。
それは雫となってとめどなく滴り落ちる。
どこまでも透明な水晶のような雫。
その雫のひとつぶひとつぶに、
儚い二人の運命を暗示するかのように
美しい虹が架かっている。

(inspired by by an imagination on Sep 15, 2007)