深夜の想像
私は右手でハンドルを握ったまま、左手でステンレスマグを掴んだ。
苛々としていた。
どうしようもなく、車を走らせたくて高速に乗った。
…光の速さで飛ぶように過ぎる、車とか過去とか家に置いてきた山積みの問題たち。
「あつっ」
私は珈琲の想像以上の熱さに小さく悲鳴をあげた。
刺激というものは例え小さくとも、必ず心を現実に呼び戻してしまう。
悲しくて悲しくて悲しくて
…いや、苦しくて。
私はパーキングエリアに車を停めた。
外は孤独な夜の匂いがした。
そして私はまた家に戻る。
リストラされた夫だとか、
その夫と寝た親友だとか、
小さな額に汗をかいた息子だとかが眠る私の町に。
それぞれの思惑を乗せて車はまた走りだす。
くっきりと夜道に傷痕を残して…。