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アイ捨てた

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くだらない日々を過ごしている。


 男に抱かれて、男に養われて、また男に抱かれている。
 おかしいなあ、俺も男なんだけどなあ。

「和紀くんは考えすぎだよ。何も考えずに俺に養われてればいいのに」
「あ、っそう」

 一ノ瀬という名の恋人気取りのこの男は、俺を養ってくれている。
 いいやつだと思う。俺が笑わなくても怒らなくても泣かなくても感じなくても、優しい笑顔でもって全部許してくれる。そうして、何も考えなくていいと、そう言い聞かせる。
 俺の怠惰な一日は、一ノ瀬が大学に行った後から開始される。と言っても、一日のほとんどはベッドの上で半裸で過ごす。ここ何日かはひどく暑くて、上着なんて着ていられない。だから俺はハーフパンツだけの上半身裸で過ごすのだ。
 ベッドから見える窓の外は暑そうで、アイスを持った小学生らしい少年たちが無邪気に笑いながら走っていく。その後ろを一ノ瀬や俺よりも少しくらい年下に思える大学生が通り過ぎていく。通り過ぎる間際、俺のほうを見て、それからすぐに視線を逸らせた。ああ。

 くだらない日々を過ごしている。

 男に抱かれ、男に養われて、また男に抱かれている。
 抱かれるのは代償だ。住みかの代償、養われる代償、愛される、代償。世界はギブアンドテイクでできている。
 一ノ瀬には俺を家の外へ出す気はないようだった。だけど俺には閉じ込められているという意識はない。これもきっと一ノ瀬の「アイ」なのだ。そのアイに答えなきゃいけない俺は家の中でベッドに転がったまま窓の外を見る日々を過ごすのだ。

「一ノ瀬、腹が減った」
「わかったよ。和紀くん、焼きそば好きだったっけ?」

 ああ、そんなことも知らない関係だったっけ。
 俺たちって一体なんなんだろうな、一ノ瀬。

「はは、和紀くんは難しいことを考えすぎだよ」
 だから彼は繰り返す。何も考えなくていい、と。
 俺はそれに乾いた笑いを漏らして、熱い焼きそばを胃に押し込むのだ。こいつは何もわかっていないし、わかるつもりもない。同じように俺だって、一ノ瀬をわかろうとも思わない。世界は対等にできている。
 ギブアンドテイクで対等な関係。すばらしいね。
 何も感じないよ。


 くだらない日々を過ごしている。
 今日も窓から外を眺める。どうしたらいいんだろう、と考える。一ノ瀬は俺を出す気がないから、俺はこの生活から脱却することは出来ない。きっと一生このまま。男に抱かれ、男に養われ、また抱かれる。代償を払い、対等な関係を演じるだけ。


 こつん。


「?」

 こつん、こつん、こーん。

 窓ガラスが叩かれる音に、俺は顔を上げた。そうして、目を瞬かせる。
 そこには昨日見た大学生が立っていた。鍵を開けるようにジェスチャーされ、俺は慌てて鍵を開けた。彼は、花開くように笑って、俺に手を差し伸べた。俺はその手を――




 くだらない日々を過ごしている。

 くだらない日々を過ごしている。

 誰かの「愛」を糧に今日も俺は代償を払う。「I」を失いながら。
作品名:アイ捨てた 作家名:空架