戯曲 フォビア
序幕
リアーヌ
(胸の大きく開いたドレスを着、酒をあおりながら椅子にしなだれている)
とんだ事だわ。ああ、本当に。とんだ事!
アニタ
(同じくこちらも胸の開いたドレス。酒は飲んではいないが気だるげである)
まったくね。まったくだわ。まさかあの女が死ぬだなんて!
リアーヌ
死んだ事は良いのよ、別に。それは良かったの。
だってあの女が死ねば、その分の客はこちらに回ってくるのだから。
アニタ
えぇそうよ。私だってそのつもりだった。でも実際はだぁれも来はしない!
もう何日も客を取っていないわ! あぁ、死んでしまいそう!
リアーヌ
だって殺されたんだもの。仕方ないわ。客に殺されたのよ、あの子!
みぃんな気味悪がって、この娼館に近づかなくなっちゃった。
アニタ
あぁ! 忌々しい! 忌々しいのはあの女!
生きている間は金持ちの客を全て手に入れ、死んでからもなお私達を苦しめる!
リアーヌ
確かにあの女は綺麗だったわ。憎らしいほど綺麗だったわ。
でももう死んでしまったのよ。ああ、それなのに!
アニタ
そうそれなのに! 我らが伯爵さまはあの女の事を諦められない!
リアーヌ
美しい伯爵さま、麗しい伯爵さま。
あの方に抱かれるなんてそれだけで夢のようだわ。それなのにあの女は――
アニタ
あら、あなた知らないの? 伯爵さまはあの女を抱いた事は一度も無かったのよ。
リアーヌ
(笑いをこらえながら)あらいやだ、不能だったの? 麗しの君は。
アニタ
(大げさに手をふりつつ)違うわ、違うわ! そうじゃないのよ、リアーヌ。
伯爵さまはどうやらね(小声になりながらリアーヌの耳元へ口を近づける)
リアーヌ
えぇ?!
アニタ
そう、伯爵さまったらあの女の事を本気で愛していたらしいのよ。
リアーヌ
まぁ! とんだ事だわ! 本当に……とんだ事!
リアーヌ
(胸の大きく開いたドレスを着、酒をあおりながら椅子にしなだれている)
とんだ事だわ。ああ、本当に。とんだ事!
アニタ
(同じくこちらも胸の開いたドレス。酒は飲んではいないが気だるげである)
まったくね。まったくだわ。まさかあの女が死ぬだなんて!
リアーヌ
死んだ事は良いのよ、別に。それは良かったの。
だってあの女が死ねば、その分の客はこちらに回ってくるのだから。
アニタ
えぇそうよ。私だってそのつもりだった。でも実際はだぁれも来はしない!
もう何日も客を取っていないわ! あぁ、死んでしまいそう!
リアーヌ
だって殺されたんだもの。仕方ないわ。客に殺されたのよ、あの子!
みぃんな気味悪がって、この娼館に近づかなくなっちゃった。
アニタ
あぁ! 忌々しい! 忌々しいのはあの女!
生きている間は金持ちの客を全て手に入れ、死んでからもなお私達を苦しめる!
リアーヌ
確かにあの女は綺麗だったわ。憎らしいほど綺麗だったわ。
でももう死んでしまったのよ。ああ、それなのに!
アニタ
そうそれなのに! 我らが伯爵さまはあの女の事を諦められない!
リアーヌ
美しい伯爵さま、麗しい伯爵さま。
あの方に抱かれるなんてそれだけで夢のようだわ。それなのにあの女は――
アニタ
あら、あなた知らないの? 伯爵さまはあの女を抱いた事は一度も無かったのよ。
リアーヌ
(笑いをこらえながら)あらいやだ、不能だったの? 麗しの君は。
アニタ
(大げさに手をふりつつ)違うわ、違うわ! そうじゃないのよ、リアーヌ。
伯爵さまはどうやらね(小声になりながらリアーヌの耳元へ口を近づける)
リアーヌ
えぇ?!
アニタ
そう、伯爵さまったらあの女の事を本気で愛していたらしいのよ。
リアーヌ
まぁ! とんだ事だわ! 本当に……とんだ事!