どうしようもない傍観者な彼のお話
4月の初め、大人しく二年に上がった僕の前に現れた転入生(とはいっても彼は別のクラスだったから朝礼で見たっきりだったけど)はなんとも可笑しな人間だった。この閉鎖された空間でもてはやされている美麗な先輩に後輩に同級生、ついでに教師までも虜にして、最初は疎まれていた親衛隊ともその正義論と最初は隠されていた可愛らしい顔で和解し、今ではその愛らしい容貌はいつだってふわふわと綻んでいる。
その愛らしさと無邪気さに無遠慮に踏みにじられている人間がいたとしても、通称地味クラスと呼ばれる美形も親衛隊もいない僕のクラス、というか僕の友人たちには関わりがなかった。少々ご愁傷様とは思うけど、突き放せない彼が悪いのだとそう思って。
いつだろうか、それが間違っていると気付いたのは。
よく見れば、彼はいつだって突き放そうとしていた。けれど彼にできる精一杯の拒否と拒絶はあの愛らしくも無神経で独善的な笑顔と周囲の厳しい視線の前に儚くなって、いつからか彼はその眼にギラギラとした何かを映すだけで全く表情が変わらなくなっていった。
ところで、これは地味クラスや他クラスの下の方にいる人間の間では有名な話なのだけれど―――彼は、生徒会長の家の主家に当たる家の一人息子で、大変家族には溺愛されているはずだ。知っている人間は自分に飛び火しては堪らないとかなり頑張って彼をかばっていたけれど、彼を踏みにじりやたらに狭くなった視界に見える真実を盲信する彼らは知っているのだろうか。会長はいつも普段の俺様な態度が嘘のようにおろおろと止めに入っていたから、知っているみたいだったけど。
それに転入生って、揉み消されてはいるけど前の学校で暴力事件起こしてるんだよね…そんな奴と付き合って大丈夫なんだろうか。家の名前にも傷がつきかねないのに。
ん?僕?僕は関係ないよ。だって僕は人と喋ることなんてほとんどない絶賛精神的鎖国中の人間だから。それに、何もしなくても許される最強の免罪符があるんだもの。
何を隠そう、あの転入生が起こした事件の被害者って僕の可愛い可愛い兄。それがぼっこぼこにされてショックでしばらく家に帰って付きっ切りで”お世話”したほど。その事件の加害者本人が現れた僕の心情を慮れば関われなんて誰も言えない。精神的鎖国は勿論彼が転入してきてからだしね。
作品名:どうしようもない傍観者な彼のお話 作家名:桜鳴 颯祈