南の島の星降りて
終電車は
それから、麗華さんはずっと俺にもたれかかって話をしていた。
麗華さんは、もう大学病院に勤めている兄がいることや、それから、隼人さんと出会ったころのこととかを話していた。話のほとんどは隼人さんとのことだった。少しは俺のことも聞いてきたけど。
もう、これ以上、麗華さんに飲ませないほうがいいような気がしていた。
「もう、飲まないほうがいいんじゃないですか?大丈夫ですか?」
完全に麗華さんの背もたれになっていたので、後ろから話し掛けた。
「電車なくなったら、劉んとこ泊めてよ・・豪徳寺だっけ?」
小さな声だった。
「送っていきますよ・・成城でしょ、家?近くじゃないですか」
「劉って・・バカよね・・」
意味はわかったけど、黙っていた。
「今、でれば、成城まではまだ帰れますから。その後だと経堂止まりしか電車ないですから・・帰りましょう。麗華さん」
少し間があいて麗華さんは口を開いた
「はぃはぃ。帰りますよ」
ほっとしていた。
腕を持って立ち上がると、思ったよりはしっかりと麗華さんは立ち上がった。
会計を済ませるとマスターは
「大丈夫か?」
って聞いてきた。
「あ、近いうちにまた、来ます。今日はありがとうございました」
麗華さんの腕を取りながら頭をちょこんと下げた。
麗華さんは
「マスター。悪口いっぱい、劉に言ったでしょ。覚えておくわよー」
ってわざと怒った顔だった。
階段を降りて駅に向かう道はまだ、人ごみが切れなかった。
麗華さんは頭も俺の肩にもたれかけていた。
「あ、タクシーで帰ろう!」
言いながら、もう、黄色のタクシーに手を麗華さんは上げていた。
「え?」
いきなりだったのでビックリした。
「タクシーで帰りますか?」
「劉ちゃんも乗って!」
止まったタクシーに無理やり押し込められると、
「劉ちゃんも送ってあげるから・・途中じゃん」
奥に座らせられると
「豪徳寺にいってください。えーっと、どのへんなの劉ちゃんち?」
なんか元気な声だった。
「豪徳寺の本当のお寺の豪徳寺の近くに行ってください」
運転手は
「お寺のそばでいいんですね?」
って聞き返したので、そうです・・って答えた。
ここから、時間で15分ぐらいかかるかなって思っていた。
車の中で麗華さんはずっと黙って俺の手を握っていた。
酔っているせいか麗華さんの手はあたたかだった。
冷房の効いた車内だったからかもしれないけど、麗華さんの体も暖かだった。
麗華さんの頭は俺の胸の中にあった。
世田谷通りを右に曲がるとあと2分ぐらいで家の距離だった。
知らない間に寝息を麗華さんは立てていた。
「もう、着きますよ」
ちょっと体をゆすって麗華さんの耳元で話しかけた。
「うん。そう。」
「はぃ、もうそこですから・・」
返事はなかった。
車がマンションの前に来たので車を止めてもらった。
「あ、私降りないと出れないね・・」
言いながら麗華さんも車を降りた。
一緒に外に出ると
「へーここか?でも、寝てたからどのへんだかわかんないや・・」
麗華さんは笑っていた。
「やっぱり、泊まっちゃお・・と」
言うと同時に麗華さんはタクシーの料金を払いだしていた。
言い出しかねないなーって思ってたけど・・あたりだった。
タクシーはお金を受け取ると、あたふたしている俺なんか気にもせず静かに走りだしていた。
「あ、劉ちゃん、怒ってる?」
眠そうな顔だったけど、やんちゃな子供のような顔で麗華さんは聞いてきた。
「いや、麗華さんがいいなら・・いいですけど・・」
冷静さを装ったけど、いろんなことが、頭を回っていた。
「さ、部屋いこう!」
腕も組まれていた。
酔ってもいないのに俺の頭はグルグル音がしそうだった。