南の島の星降りて
リストランテで手紙を読まれて
「私がよく行く店でいいかな・・」
そりゃ、どこでもよかった。下北ではよく飲んでたけど、絶対に知り合いの店なんかに行くかよ・・って思った。麗華さんを連れて行ったら誰に何を言われるかわかったもんじゃなかった。
「はぃ、どこへでも」
連れて行かれたのは、イタリアンの家庭料理の店だった。この店は知っていたけど・・俺的にはちょっと予算オーバーの店っぽくて1度も入ったことはなかった。
麗華さんの後からついていくと、店長らしき人が出てきた
「浅見様、お待ちしておりました。こちらでよろしいでしょうか」
通されたテーブルは1番奥の2人ではちょっと大きめのテーブルだった。
緊張しながら座ると
「ワイン飲める?劉ちゃん?」
嫌いだったけど、ビールってのはどうなんだろうか・・
「あのう、ビール頼むと恥ずかしいですか・・ワイン苦手で・・そんなに飲めなんですよ俺」
「あら、いいのよ、ここそんなに気取った店じゃないから」
横にずっと立っていた店長らしい人は笑っていた。
「ではワインとビールをお持ちいたします。料理はこちらでお任せでいいでしょうか」
「お願いしますね」
麗華さんは、どう見てもお嬢様だった。
ビールとワインで乾杯して前菜らしいものを食べた。
「なんか、隠してるみたいで嫌だから先に用件すませちゃうね」
ドキドキした。
「隼人が怒ってたわよ・・劉ちゃんのこと・・」
ちょっと黙った。
「そりゃ、怒りますよねー」
顔を麗華さんは近づけてきた。
「そりゃ、そうよー。だめよーあんなことしちゃ」
あんまり近いので関係ないほうでドキドキしてた。
「あんなに、怒ることあんまりないんだけどねー」
「そうですか・・」
ドキドキしてる場合じゃなかった。
「隼人、今夜ね、劉ちゃんに会いたかったらしいんだけどバイト休めないらしいのよ。で、私に言ってこい・・っていうからさ」
ヤベーよーって思った。
「夏樹ちゃんも怒られてたわよ。隼人に」
忘れていた。俺より夏樹の方が大変なんだった。
「連絡ないんですけど・・夏樹は大丈夫ですか・・」
「え、電話もないの?劉ちゃんに?あの子らしいわ、なんか、ほっとしちゃったのかしら・・」
よく意味がわからなかった。
「ま、食べなさいよ、冷めちゃうよ」
気がつかない間にテーブルにはいろんな料理が運ばれていた。
お腹はすいていたけど、それどころじゃなかった。
「で、伝えるね、隼人からの伝言」
「あ、はぃ」
麗華さんはちっちゃなバックから手紙らしいものを出した。
「読むよー。隼人から預かってきたから」
「は、はぃ」
緊張した。
「つまらん嘘はつくな。夏樹とはちゃんと話したから心配するな。迷惑かけたな。でも、こんな芝居は2度とするな。明日はちゃんと海にこい!・・だってさ。劉ちゃんにこんな嘘つかれるとは・・って怒ってた。ま、笑ってたけど」
背中に汗が流れていた。
「あのう。それって、ウソがバレちゃった・・ってことですか」
「劉ちゃん夏樹に、俺と付き合うって言えっていったんでしょ?それ私でもウソなの分かるから・・私、笑っちゃったもん・・その話聞いたとき」
なんか、すごく力が抜けていた。
「正直いえばいいものを・・って隼人怒ってたから、明日あやまりなさいよー。俺ってそんなちっちゃい男にみえるのか・・・って傷ついたみたいよ・・隼人」
「あ、すいません。そりゃ、そうですよねー」
なんか、ほんとに全身の力が抜けそうだった。
「ほっとした?」
「はー」
精一杯の返事だった。
「さ、もう、用件は終わったから、楽しいデートしよ」
「はぃ」
「さー。飲もう、食べよう。ここでたら、電話でいったパフに行くからね。劉ちゃん。ちゃんと付き合ってよー」
ほっとしたら、お腹が本当にすいてきた。モリモリ食べる俺だった。
「劉ちゃん。いきなり、そんなに食べなくても・・」
夏樹が俺に連絡しなかった理由がなんとなくわかった。
テーブルのキャンドルの明かりが麗華さんの瞳の中で揺れていた。
「あのね、劉ちゃんと1回デートしたかったのよ。だから、隼人に私が劉ちゃんに言ってくるね・・って言っちゃたのよ。本当は」
とてもとても、気の利いた返事なんかできるわけはなかった。
思いっきりお皿の肉に食いついてごまかしていた。
麗華さんは大人の笑みをキャンドルの明かりの中で浮かべていた。
「麗華さんて浅見さんなんですね」
「やだー」
恥ずかしそうだった。
「さ、食べたら、次いくからねー。今日は終電まで帰さないからねー劉ちゃん」
見かけはお嬢様だったけど、海でみる麗華さんに戻っていた。それも素敵だった。