騎士
盾となってその身を守り、剣となって戦いたかった。
「それは一の魔術師と呼ばれる今も?」
貴方は悪戯っぽく笑う。私は諾と頷く。
彼女は剣を持ち、最前で戦う。返り血を浴びても怯むことなく敵陣に斬り込む姿に陶然とする己を叱咤しながら、後方支援しか出来ぬ一介の魔術師。いつも、その後ろ姿ばかり見ている。
「わたしは、あなたの援護魔法があるから安心して戦える。あなたの結界で守られている。あなたの攻撃魔法が雑魚を蹴散らしてくれているお陰で体力温存になっている。何度もそう言っているのに?」
それでは意味がないのです。そう言いかけて、口を噤む。自身が絶望的に剣術に向かぬと知ってから、私は引きこもって出来うる限りの魔術を習得した。少しでも貴方の力になりたい。ただそれだけの為に。
「戦いが済んでからの疲労は、どっちもどっちでしょう。わたしも疲れるけれど、あなたは魔法を使う分余計に疲れる筈。こんなに頼りにしているのに」
まるで愛の告白だと錯覚しそうな素直な言葉に、よろめきそうになる。それでは、いけないのだ。
「貴方に血を流させたくない、と言ったら怒られますか。……くだらない、男の意地です」
美しい彫物が施された束に手をやりながら、彼女は戦場では見せないような年相応のあどけない笑顔を見せる。その切っ先は、幾千の血を吸っただろうか。
「男はいつだって、くだらないところで意地や見栄を張ったりするのねぇ。わたしは魔法がからきし使えないのだから、この身体とこの剣でしか戦えないの。わたしが助けられてるのは、あなたよ」
全く、カタブツなんだから。
耳元で、そんな声が聞こえた気がしたが、それよりも、唇への不意討ちの衝撃の方が大きすぎて、私は黙り込むしかなく。