名もなき讃歌を君に
2.旅人
手紙はかかない
君はきっと僕を忘れる
手紙はかかない
僕もいつか君を忘れる
写真はいらない
それは凝固した過去の抜け殻
物はいらない
それは朽ちてゆく時間の象徴
ねぇ
でも
思い出だけは形がないから
どこへでも持ってゆけるよ
消えることなく
ポケットの奥にひそんで
僕とともに広い川を渡り
砂に埋もれながら砂漠を越える
太陽に熱され
月に冷やされる
君の街で拾ったかけら
川辺の日差し、木陰の匂い、悲しみと喜び、うつくしい横顔
波に洗われ
風に削られて
滑らかにまろくなったそれが
ある日ポケットの中で
僕の指に触れる
そっと取り出して眺めれば
僕の目に
柔らかに澄んだ光がとどく
星もない闇夜にいても
光だけを抱いて
果てを知らず歩く