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Apex of Sky ~prologue~

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春の風も乾きはじめ、そろそろ夏の日差しが肌を焼く季節となり始めた頃。
いつもの通学路、登校する生徒も見当たらない時刻、僕は然るべき場所を目指し、足を急がせた。
完全なる遅刻。
春の学園祭が延期になり、予定していた日を大幅に過ぎた今から1週間後に迫るそれを迎え撃つべく、夜遅くまで小道具作りに精を出していたため、目覚ましの音を聞き逃してしまった…。
「間に合わないな…。」腕に携えた時計を一瞥し、間に合わないことを確認すると呟いた。
普段から遅刻などは一度もしたことがない僕が遅刻するのはきっと生徒指導部を驚かせるだろう。
(違反切符は嫌だな…)正直生徒指導部の厳つい教員の群に入るのは入学から1ヶ月以上経った今でも十分な圧力だ。
バイクでもあればなとふと思ったが、すぐにそんな考えは脳内のゴミ箱欄にドラッグされていた。理由は単純。まずをいえばまだ16歳になっていない。なってから取るとしても、9月以降は確実、その上バイクを買う資金も、免許を取得する資金も無かった。
急ぐのも諦め、僕は急ぐ足を落ち着かせ、体力を温存することにした。
生徒指導部の教員にどう言い訳をするか思考を巡らせつつ生徒のいない通学路を辿っていると、背後から甲高く乾いたエンジン音が響いてきた。皮肉にも、バイクのエンジン音だ。
学校まで乗せてくれないかと思考の片隅にそんな事を思わせ、溜め息をつくと、通り過ぎかけて目の前で止まったバイクに目を留めた。この辺りは信号などない。何か気になったのか、落とし物でもしたのか。ナンバーは地元のナンバーだから、迷ったという可能性は少ないだろう。
「君、遅刻するよ?」止まったバイクに乗っていたライダーはヘルメット越しにそう言った。それは僕に言ったのか…。
「もう間に合わないよ。」溜め息混じりに言ったところ、そのライダーが同じ学校のブレザーを着た女生徒だということに気が付いた。
その女生徒はヘルメットを頭から外すと、乗りなよと顎をしゃくって合図した。
しかし僕の思考は彼女の言葉には届かず、そのヘルメットに隠されていた面に向いていた。
整った清閑な顔立ちはどこか美形少年のようにも見え、またすべてを知っていると言わずと語る大人の女性のような雰囲気にもとれた。蒼とも翠ともとれない瞳は外国との関わりが盛んになったこの国を象徴するものでもあり、その瞳は見つめていると吸い込まれそうな錯覚を覚えた。短くまとめた黄金色の髪は良く晴れた今日の太陽に照らされて目映いばかりの艶を見せていた。
「乗らないの?」首を傾げた彼女の言葉に僕ははっとした。
「い、いや、乗るよ。」慌ててそれに応える。思わず動揺してしまった…。
はい。と手渡されたヘルメットを受け取り、被ってみる。少し小さいが、押し込めば入った。ヘルメットの中は、その女生徒のにおいだろうか、いい匂いがした。
早くと急かされ、彼女の後ろに跨る。
白いフレームとボディー、黒光りするエンジンと、白銀のマフラーが特徴的なオンロードスポーツバイクだ。そう言えば最近学校のバイク用駐車場に停めてあったような。バイク通学が許可されている学校は最近増えてきているようで、我が校もその波に乗っているということか。となるとこの女生徒は上級生なのだろうか。いや、単に誕生月が4、5月だったということもあるだろう。もし同学年でも1ヶ月そこらしか経っていないうちに学年全生徒を把握できるかといったら無理である。よって充分同学年に生徒であることも有り得るわけだ。
「ほら、しっかりつかまらないと落ちるよ?」ヘルメットの中の香りと、バイクに乗っているということへの興味で思考が逸れたところ、彼女の声で我にかえる。
「腕しっかりこっちに回して。もっと力入れないと離れるよ?」半分笑うような声音で言われ、言われた通りにする。
(恥ずかしい…)つかまらなければならないとはいえ、相手は女生徒である。健全な高校生男児なら誰でも恥ずかしいだろう。
「ふふっ、恥ずかしい?」
見透かされていた…
「行くよっ」彼女の声の直後、身体にGが掛かる。バイクが発進したのだ。
作品名:Apex of Sky ~prologue~ 作家名:Sizuqh