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ばかだねえ。

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秋也は、欠伸を一つしてから視線を廊下に移した。
修平を呼び出した張本人は、変わらずにこにこと笑っている。
それが素なのか、教室に入ってくる生徒にぶつかられても、その表情は一向に崩れない。
高校生男子らしく、それなりに背丈のある自分と比べ、少し長めの黒髪と相まった童顔の上級生は、小柄な部類に入るだろう。
(あんな可愛いのに、結果的に振り回されてんだからなー、あいつ)
ほんと、ばかだねえとこっそり笑い、先輩に背を向けた。
窓側の後ろから二番目に陣取った自分の席からは、校庭の様子がよく見える。
嫌でも目につく金色の髪は、あっという間に小さくなり、校門を曲がったところで完全に見えなくなった。

「倉橋先輩、あいつどこ行ったんですか?」
年上相手に礼儀がなってないと思いながらも、秋也は窓に目を向けたまま声をあげた。
その年上自身も気にしていないのだろう、少し高めの声を間延びさせて答える。
「わかんなーい」
「わかんないって、先輩が何か言ったんじゃないんですか?」
「だって、わかんないんだもん。修平、いきなり『わかった、俺に任せろ』って言って走っていったんだよ」
唇を尖らせる姿に、悪意は微塵も伺えない。
本心からの言葉に苦笑し、秋也は廊下に立ったままのひなたの方へと向かった。
「でも、あいつが何もなしに出てくことないでしょ」
「えー、でもあるかもしれないよ?」
「例えば?」
「他の学校の人からの呼び出しとか。ほら、果たし合いとか。」
至極真面目に答えるが、その内容に思わず吹き出してしまう。
「果たし合いとか、あいつが受けるわけないでしょ」
「ええー。結構修平喧嘩してるよ?」
「流石ヤンキー」
「ばりばりの金髪で夜露四苦ってかんじだよねえ」
両者ほのぼのとした空気を流しながら、ねえと首を傾げる。

「で、先輩。何言ったんすか」
「だから、言ってないってば!そんなに意地悪ばっか言うなら、春ちゃんに言いつけるからね」
「兄貴に言いつけて何になるっていうんですか」
「・・・・・・学食で、一番好きなメニューがなくなるかも!」
大変だよと、ひなたは眉をしかめるが、はは、と笑うだけで秋也は留めた。
「そんな権限、生徒会長にあるわけないでしょ」
「春ちゃんならなんか出来そうな気がする」
言われて、一度想像をしてみる。
(・・・まあ、そういう事言いそうだけど)
確かにと頷きそうになる部分を兄の性格から垣間見て、慌ててその意識を捨て去る。
「そんなわけないでしょ、ほら先輩、夢見てないで、授業ですよもうすぐ」
「わ、いけない!次、美紀ちゃんの授業だ!じゃあね、はせしゅー!」
慌てて、ひなたはその場から駈け出していった。

「・・・流石は倉橋先輩。うっかり飲まれるとこだったわ。つうか、また呼び名の修正できなかったし」
シュークリームみたいで嫌なんだよなー。呟きながら秋也も自分の席に戻る。

こんこん、と使用者不在の後ろの机を叩いた。

「ベタ惚れだったら、そりゃ言いなりにもなるってもんだ。馬鹿だとか、そういう問題じゃねえな。ありゃ仕方ないわ」
作品名:ばかだねえ。 作家名:ash