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俺のきらいなアイツの秘密①(出会い編)

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バスケの名門、桜都学園に入学するために、俺は血眼になって勉強をし、寮生活に難色を示す両親を必死のパッチで説得した。
 その甲斐あって俺は今こうして勝利の合格通知を手にすることができたというわけだ。
 
――――4月、桜の花びらが舞い散る中、俺は意気揚々と期待に胸を膨らませ、桜都学園の門をくぐった。

 入学式を終え、新入生のオリエンテーションもそこそこに、俺は即効で服を着替え、バスケ部に直行した。
 ずっと憧れていたバスケのインターハイの常連校、桜都学園。
 これで俺もようやく強いチームでプレイできる。
 そして地方では果たせなかった全国に挑むことができるのだ。
 はやる期待に体が震えそうになるのを必死で堪えながら、俺は足を踏みしめる。
「すいません」と第二体育館の扉を開くと、そこにはすでに先客がおり、1on1の対戦中だった。

 長身のえらく整った顔立ちの男が空を舞う。
 手から放たれたボールが弧を描き、弧気味の良い音を立ててゴールに吸い込まれる様を見たとき、俺は鳥肌が立った。

「ちくしょ~負けちまった!」

 俺より少し年上の雰囲気を漂わす、多分先輩が肩で息をしている。
「何、君?」
 先輩が俺に気付く。
「あの、バスケ部に入部したいんです。」
「ああ、場所をまちがえたんだね。女バスは第一体育館で練習しているよ」
 今俺は多分耳まで赤くなっているだろう。

「違います!俺男ですから!!!」

 と怒鳴って、肩を落とす。
俺、宮川新はコンプレックスの塊といっていい。
身長は160cmの体重50kg、どう考えてもチビで華奢なうえ、極めつけが母親譲りの女顔ときている。
中学のとき、女子対象の美少女コンテストに無理やり参加させられ、見事優勝してしまったというトラウマがある。

「あ、そう。ちょっと残念」

 と先輩は体育倉庫で練習の準備をしているマネージャーを呼ぶ。
 桜都学園は共学なのだが、『女が入ると気が散る』という、とっても酷な監督のポリシーのおかげで、マネージャーも男という、なんとも酸っぱい部活と化してしまっている。
 入部届けに名前を書き、一通りの入部手続きを済ませると、俺はマネージャーと共にひたすら雑用をこなすことになった。
 その日、筋肉推薦のメンバーも含め35名の新入生がバスケ部に入部した。
 新入生に課せられた練習スケジュールはひたすら基礎練と雑用なのだが、アイツだけは違った。『実力を測るため』とかいってすでに上級生との紅白試合に参加している。
誰もがアイツのプレイに目を奪われる。
電光石火の早業で、全国制覇を経験した先輩のディフェンスを突破し、ゴールを決める。
 長身で甘くはないが、モデル雑誌にでも出てきそうな端正な顔立ちのアイツの活躍に外野の女子たちが黄色い歓声をあげる。
 アイツの名は確か緑川翼といったか……。前にバスケの雑誌で見たことがある。
 奇跡の逆転勝ちでチームを勝利に導き、アイツはMVPを獲得した。
 そんな鳴り物入りのスーパースターなアイツと、雑用係な俺。
 対比してみると少し落ち込む。
 俺は唇をかみ締める。
 悔しい……。
 俺もアイツと同じ場所に立ちプレイしたい。
 だけど俺には、俺のプレイを皆にアピールする機会さえない。
 
 暗い気分のまま、練習を終えた俺は、とぼとぼと寮へと帰路につく。
 なんといっても今日が高校生活の初日で、これから共同生活を始めるルームメイトとも初の顔合わせとなる。
 どんなヤツと一緒なんだろ?良いヤツだったらいいのに。とまだ見ぬ同居人に思いを馳せる。

 部屋にたどり着き、俺はものすごくうんざりとした気持ちになった。

「よりによって、同居人がお前かよ!」

 緑川翼は何食わぬ顔で、すでに明日の英語の授業の予習を始めている。
くそっ気に入らねえ。
 アイツの何もかもが気に入らない。
 俺はむしゃくしゃして、自分のベットに寝転がりアイツに背を向けると、今日発売の少年ジャンプを読み始める。
 が、数ページ読んだところで俺はそれを閉じた。
 駄目だ……。
 こんなことしてちゃ、いつまでたっても俺はコイツに追いつけない。

 俺はボールを持って部屋を出ようとした。
「おい、お前でかけるのか?」
「ああ」
 俺は少しぶっきらぼうに答える。
 アイツの目つきが少し鋭くなる。
「どこに行く?」
「ちょっとシュート練習しに行ってくる」
「夜道は危険だぞ。9時には戻れ」
「はあ?俺は女の子じゃないっつうの!」
 お前は年頃の女の子を持つお父さんか!っうの。
 
 チャリンコを漕いで、公園へと向かう。
 春の夜風が肌に気持ちよく、なんとなくご機嫌な俺は鼻歌を歌う。
 運よく公園には誰もおらず、俺の貸切状態。
「ラッキー」
 俺はシュート練習を始める。
 膝をやわらかく、高く飛んでボールを放つと、それは弧を描きゴールに吸い込まれる。
 ボールが網に擦れる弧気味良い音を聞きながら、俺は空っぽになる。
 同じ動作を何度も繰り返すと、いいかげん疲れた俺はその場に大の字になって寝転がる。
 「あ~気持ちイイー」
 星がまばらにちらばってみえる。地元じゃもっとたくさんみえるんだけど、なんだか少し寂しかった。

 不意に子供の声がする。
「誰か、助けて!」
 俺は声のするほうに駆け出す。
 どうやら、それは少年で、彼の飼い犬が川に落ちたらしい。
「お姉ちゃんどうしよう。メリーちゃんが死んじゃうよう!」
「お姉ちゃんじゃない!お兄ちゃんだ!!!」
と俺は一言訂正を入れる。

 犬はキャンキャンと甲高い声を上げ、浮き沈みを繰り返す。
 俺は夜の水面に足を突っ込み、犬に近づく、が、この川意外と深くて、流れが速い。ようやく犬を抱き上げ、橋の上に乗せ、救助完了というところで、俺は濁流に飲み込まれる。ちくしょう!これじゃミイラ取りがミイラになっちまう。
 刹那、岩だかなんだかに強かに頭をぶつけ意識が遠のく。

「やばい!俺死ぬかも」

 と死を覚悟した瞬間だった。
 幻聴か?アイツの声がする。

「あほう!9時には帰ってこいといっただろうが!!! お前10分も送れているぞ!!!」

 自力で動けない俺は、不覚にもアイツにお姫様抱っこをされて救助されてしまった。
ようやく岸についても意識が定かでない俺に、アイツは人工呼吸・・・・しやがった……。
 不意に意識が覚醒し、俺は反射的に右ストレートをアイツの頬に炸裂する。
「何しやがる!」
とアイツはむっつりと黙り込んだ。

 なんとか寮に戻ったあとも、なぜだかアイツは、やれ頭を冷やせだの、安静にしてろだのとかいがいしく世話を焼いてくれる。
 不思議とそれは心地悪いものではなく、俺はアイツの見守る中、爆睡してしまう。

そんな新の寝顔を見つめ、翼は安堵の吐息を漏らす。

 「あんまり心配させるな。お前はとにかく危なっかしい」
低く新の耳元で囁き、優しく唇をかさねた。

そして、新は知らない。それが新の受難の始まりであったことを……。