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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】one of A pair

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ACT,5





 鈍色の曇天からは、白い雪が降りてくる。
 季節を急いだ、初雪だった。
 だが、それにしてはいささか盛大な降雪量である。あたりは一面うっすらと――白い。
 まだ明け初めたばかりの、空の端に蒼さの遺る早朝、少年は庭先にたたずんで静かに息を吐いた。
 吐息は、白く凍え、雪の色に重なっていく。
 彼女は、少年の視線の先にいる。こんな時間にもかかわらず、であったが、彼女にとって時間はさほど重要な意味を持つ概念ではないのだ。彼女は、想いのまま、ここにいるのだから。
 彼女は、もはや生身の女ではない。この世に在らざる念いの残滓。
 ――篠崎湖珠。
 年若くして自らその命を絶った、此岸を離れた少女の、青白い心。
「神主君……」
 湖珠は、そう柚真人を呼んだ。緩く波打つ髪を無造作に垂らした湖珠の表情は、よく見えなかった。うつむいているためだ。
「神主君……」
 柚真人はすうっと目をほそめた。
 どうしてだか珍しく朝も早くから目が冴えると思ったが、なるほど今朝は、どうやら彼女に呼ばれたらしい。いつやってくるかと思ってはいたがまたえらい日を選んでくれたものだ。
 湖珠の躯は半分透けており、背後に竹薮が見えている。
 顔を上げて微かに微笑む。そうしてみると、彼女も存外に幼い風情だった。
 柚真人は、白い寝間着の懐から、彼女の索める物を取り出した。細く優美な指先が、すいと凍える空気を揺らす。それは、簡素な銀の耳飾だ。
 ――約束の、彼女の遺品。
「貴方の探していたものは、これでしょう?」
 そういうと、あたりの気配がふわりと揺らいだ。安堵の空気が広がったようだった。
「ええ。それよ」
「これで昇天って逝けますね?」
「ええ。……どうも、ありがとう」
 少年は、それを湖珠の方へと放り投げた。彼女はそれを受け止める。実体のないその両手の中に、銀の耳飾が届いた。
「ありがとう……」
「礼はいい。さあ早く行って下さい。……『恋人』を待たせてあるんでしょう」
 少年は、選ぶ言葉こそ丁寧であるものの、高圧的な口調で無表情にいう。
 また、気配が揺らいだ。
「貴方……もしかして、あたしのこと……」
「いいえ。……心配には及びません。おれが、それをあなたに返還したことが、おれの選択した答えだから」
 雪が舞う。
「さあ」