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おうし座の誕生会

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「やっぱり価値観の違いっていうのは、重要なもんよ」
私の言葉に頷きながら、みつきはナゲットを頬張った。痩せた、とは云いがたいが、標準体型の彼の身体の一体何処に、これだけの食べ物がつめ込められるのだろう、目の前の無数の皿を見ながら思った。
「価値観かあ」
咀嚼を続けるその口は、こないだ動物園で見たキリンのようだったけれど、彼はどちらかといえば肉食動物なのだろう。一見温厚な肉食動物、なんだろう?
四月生まれの彼の誕生日を祝うつもりが、気がつけば私の愚痴大会になっていた。まあ、そうなった理由は色々ある。入社数週間で、新しく出来た部下が辞めた。自分には合わない、と捨て台詞を残して去っていったらしい。合わないと気付いたのが今で、遅かったのか早かったのか。そのせいで仕事が増えた。一昨日、彼氏に振られた。重い、一言残して去っていった。やっぱり結婚を意識しだしたのが不味かったのだろうか。
前々からなんとなくうまくいかないことはあったけれど、噛みあわせの悪くなったギアのようなもので、手入れをすればまた元に戻ると思っていた私はオプティミストだったのか。
目の前の男の食いっぷりは、いっそ精々しくて、些細なことがどうでも良くなってしまった。
「まあ、だから私は新しい恋を探すことにするわ。で、あんたはどうなのよ?」
みつきはちらりとこちらを見て、口角を綺麗に引き上げた。
「いるよー彼女。でも何か振られそう」
「何で?」
「ちょっといいなーと思う子がいて、遊んだのばれた」
「浮気じゃん」
「あはは」
「笑ってごまかすな」
四月二十九日生まれの彼は、のんびりと草食動物の咀嚼を再開した。
そう、彼はおうし座なのだ。
欲求に正直なおうし座のみつき。

「知ってた?おうし座って他の星座より欲求が大きいし忠実なんだって」


さて、どう返したものか。






作品名:おうし座の誕生会 作家名:おねずみ