妖怪のいぶき
第十五夜「桜」
小さな頃から、デクノボウとかウドノタイボクと言われ続けた。
そのたびに母に泣き付いていた。
母は男の子は泣かないものよと言った。
それでも、溢れ出す涙。
そんな様子を見た父は僕を連れ、とある草原に赴くのが暗黙の了解のようになっていた。
そこには、樹齢数千年を越える1本桜が有った。
他には何も無かった。
大草原が広がるだけ。
父は何も言わなかったけれど。
そこに行くとなぜか落ち着いた。
涙も乾き、いつのまにかその場に有った土や草を使っては山や河を造る子供だった。
帰る頃には、泣いた事などすっかり忘れて父の肩に乗って。
そうして、僕は、ゆっくりゆっくり大人になった。
今では、父母も居ないけれど。
僕は、いろんな國に行き少しずつではあるけれど仕事をしている。
ある日、久しぶりに故郷に帰った時。
心が押し潰されるような光景を見た。
街は一掃され山河は崩れ、人々が泣き叫ぶ。
ごめんね母さん。
男の子だけど、とても現実には思えなくてボロボロ泣いたよ。
でもね、泣き腫らした目で辺りを見渡したんだ。
そしたらね、あの1本桜残ってたよ。
父さん、大丈夫だよね。
だって、この國は僕が造ったのだから。
また、涙が乾くまで少しずつ、無理せず新たな山河や街を造るから。
何年かけてでも…
今回の妖怪:だいだら法師(ダイダラボッチ)日本各地に伝承される巨人とされる。
山を運んだり、人間の助けを行うとされる伝承が多いように思える。
また、国造りの神とも云われる。