20100814
ところで、ここに座ってると壜に詰まった色んな物が漂着してくる。それは新聞だったり、手紙だったり、絵だったり。
最近では、ぱっと見ただけでは何も入ってないように見えるものもある。でも、きゅぽっとコルクを抜いた瞬間に、振動と共に音楽がふわっと溢れ出して空気を伝い逃げていく。もっと大きくて重い壜になら、音楽と動く絵本が合わさったものも入ってたりする。
海、昼は眼を持っていかれる程、夜は空の輪郭をを照らし出す程の眩さで悠々といつもそこにある。
毎日、扱い切れない程の沢山の物が流れ着くから、とても面白くてどきどきわくわくしてる。もらってばかりじゃ悪いな、と思い、ちょこっと前から自分も音楽や絵や文章を壜に詰めて流し始めた。自分の私生活の記録なんてものは誰も興味無いだろうから流さない。つまんない、なんてやだ。
返事、反応を壜に入れて流してきてくれる優しい人たちもいて、そのお返しにもっとどきどきさせるものを作りたいな、なんて思ってみたり思わなくなかったり思わざるをえなかったり、つまり、思う。
この海を満たしてるこれはなんだろう。きらきらしてて、触れない。でも、ある。
1年前に恋した。その人の顔は知らない。声も知らない。名前も知らない。知ってるのはその人を模して作られた小人と、それが数秒間隔で忙しく持って来てくれてた手紙(壜に乗っかって漂ってくる小人なんて、なんてメルヘン。)。
それでも、たった少しの時間の中で一緒にふざけあって、馬鹿なことを延々と繰り返して、笑った。ほんのりとしたあの気持ち、それを冗談の毛布で厚くくるんで話の焚木にしたり。
顔も声も名前も知らない。でも、いた。
いつかはこの海を自分自身で泳げる日が来るのかな。身体っていう服を脱ぎ捨てて。ね。
今は、何も知らない。
なんとなく自分の小人を消して、なんとなく手紙を返さず、なんとなくいつもいたこの浜辺から去った。自分がしたこと。悪者なんて必要ないけど、敢えて仕立て上げるとしたら、それはもちろん自分。知らないけど。
知らない、そう、知らないから、みんなそれぞれの浜辺から壜を流したり、それが来るのを待ったりしてるのかも。想いつきもしない知らない何かを、きっと知ることができる楽しみ。子供のような笑顔。
自分がその人のことを忘れないのと同じように、自分が誰かにとって忘れられないものに為れればいいと思う。その人がくれたように、自分も誰かに与えて、それが何かに成る。つなぐ。
自分。ほのかな気持ち。浜辺と浜辺をつなぐインターネットの海。
またひとつ光る波寄せる浜辺でひとり、物想いに耽る。あの人にはもう会えないんだな、とか。