花火に思い
未だにキミが納得していない当たりが、わたしとしてはどうにもこうにも不服なのだけれど、こればかりは根気よく納得してくれるまで説得し続けるしかないと腹をくくり、覚悟をした上で、諦めている。
そうそう、この諦めているというのは説得するために、わずかばかりでない労力をかける必要がある、と云うことに対してだ、誤解しないようよろしく頼むぞ。
それはさておき、話の本題に入りたいと思うのだが良いかい、と訊いておいて気づいたが、これは訊くようなことではないね、では本題だ。
詰まるところ、わたしはキミに話しかけなければならないわけだ、キミが先手を取ってわたしに話しかけてくれない限りは。
わたしはキミに話しかける前に必ずどんな言葉で話しかけようか、わたしの全知能をフル稼働させて、思索し思案し思考し思慕して、推敲に推敲を重ねた一言を、まさにと云ったタイミングで発するよう心がけているのだが、いかんせんキミに出逢う回数がおおいに多く、キミが消えないうちに話しかけなければならないことと、キミから話しかけてくれることの少なさが見事にマッチにして、最近より一層の苦労を感じるようになったのだよ。
そのことについてキミはどう思っているのか、躊躇わず問いたいがそれはやはり色々とまずいだろうと、常識人であることをモットーにするわたしとしては愚かにも考えて口には出さない。
ともかく、そうして考えた結果、今回の趣向は天気についてでも話そうかと思ったが、やはり普通のままではキミは面白みを感じないと思い、少々趣向を凝らしてみる。
では行くぞ。
思うに、本日は風が凪ぎ雲も少なく雨の心配もない花火日和だと思うのだがどうだろう?」
「お前、その一言のタメの前振りが長いよ」
まぁ、そのことに関しては諦めているが、と一言付け加えておく。
もちろん、彼女のように努力云々ではない。彼女の前振りが幾分大仰なことだ。
「それで、要約するとお前は花火がしたいと。そういうことか?」
「そうだ。さすがはわたしが認めた男性であるな。さすがだぞ。尚、準備に関しては心配せずともよい。すでに終わっている」
胸をはって彼女は言う。だが。
「一つ文句を言おう。花火は風があった方が煙りが流れてよく見えるし、今はまだ夕方だ」
「一つでないぞ」
「なら三つ」
「今度は多い!」
「じゃあ零」
「文句なくなった!」
アホな会話である。
「なんでも良いよ。一つも二つも三つも変わらないって。ともかく、そういうわけなんだが?」
「その点に関しては問題ない。今回はそういう花火なのだ」
その瞬間、――花火が上がった。
一本の、煙が伸びて華開く。
二つ、三つ、四つ。色とりどりの煙が伸びては、空のキャンパスに模様を描いてゆく。
ふらとふらと昇るそれは、夜の花火に比べて、なんの遜色もない美しさだ。
どれだけ経っただろうか。
最後の一つ。
メッセージの書かれた、パラシュート花火がゆっくりと降りてきた。
そこに書かれた文字を読み、俺は一言。
「お前、よく考えたな」
「その言葉が聞きたくてやったのでな。……返事を聞かせてくれ」
「いつになく自信がないな」
全く、そういうところが――いや、なんでもない。
「返事なんて決まってるだろ?」
そう言って、俺は彼女に――した。
何をしたか? んな事言えるか!