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にしんの漬物
にしんの漬物
novelistID. 14315
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仁義なき戦い(神器だけに)

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なぜ、こんな事になってしまったのだろう…俺たちは今、親友同士という関係を超え、激しい戦いを繰り広げていた…そうだ、あれはほんの一時間前、俺がコンビニで雑誌を
買った帰りの出来事から始まったんだ…


約一時間前
「お~、暑っついぜ~。もうすっかり真夏だな。」
 けたたましく鳴く蝉の声、肌を突き刺す強い日差し。今はもう真夏だ。大学に通う青年コータローは、コンビニを出た途端に夏の暑さにめまいを感じた。早く涼しい家に戻ろう、と足を急がせる。と、その時、ふとゴミ捨て場が気になった。
「…なんだありゃ?」
彼の目に、古ぼけた汚い壺の姿が飛び込んだ。普段ならそのようなものは気にも留めないのに、なぜか気になって仕方がなく、気付くとその壺を手にとっていた。
「ま、価値のあるもんかもしれないし持って帰るか。」


 家に帰ると、ちょうど親友のショータローとユータローが遊びに来ていた。ショータローは少し太り気味で、口の周りにこれでもかと言うほど髭を蓄えている。ユータローは暗い性格だが、地味で影が薄いのが幸いしてイジメにあう事もなく平穏な人生をおくっている。
「よう、来てたのか。」
「ああ。ところで、それ何だ?」
ショータローが、コータローのの抱えている壺を指して言った。
「ああ、そこのゴミ捨て場で拾ったんだ。」
事情を説明しながら、彼は二人を自室に案内した。


「…というわけなんだ。」
「ふ~ん。それにしても汚い壺だな…ん?何か書いてあるぞ?」
 ショータローが、壺の裏側に何かが書かれている事に気付いた。
「なになに、この壺に願いをかけると、どんな願いでも一つだけ叶えてくれます。ただし先着一名様のみ。」
 沈黙が流れた。あまりにも胡散臭い文章のため、にわかには信じがたい。しかし…
「もし、もしだぞ。これが本当の事だとしたら…」
「彼女いない歴が年齢の俺にも彼女が…」
「影の濃いいい男になれる…?」
 三人の間に何かただならぬ空気が漂う…そう、これは殺気と呼ぶに相応しいもの…だが、さすがに血を見るような事をするのはまずいと、コータローがある提案をした。
「二人とも、今から俺がある勝負を提案しよう。勝った奴がこの壺に願いをかけられるんだ。」
「…その勝負方法は…?」



「ババ抜きだ。」


 ババ抜き…それは50枚以上あるトランプの数字を合わせそれを捨て、最初に手持ちのカードが無くなった者が勝者という極めてシンプルなゲーム。だが、その中には一枚だけ『ジョーカー』と呼ばれるカードが混じっており、それを手に取った者はその瞬間、このゲームにおいて最大のハンデを背負う事になるという極めて過酷な戦いなのである。


 そうだ、そうして俺たちは己の願いをかけたし烈な戦いを始めたんだ…俺の願い…以前間違って使ってしまった超レアな昭和64年製造のギザ突き十円玉を取り戻すんだ!!戦いはすでに決着に差し掛かっており、俺とショータローの一騎打ちとなっていた。ユータローはといえば、なぜか一組もそろわないまま、すでに諦めているようだ。俺の部屋にある漫画を寝そべりながら読んでいる。しかし、ババ抜きでカードが一組もそろわないなんて物理的にあり得るのだろうか?それは置いておくとして、俺とショータローは、運命をかけた戦いを繰り広げていた。


 手持ちのカードはスペードのA。おそらく向こうも同じAだろう。コータローは一枚だけ残った自分の手札を見て、緊張を高めていた。おそらく次が勝負だろう。向こうにあるのは当たりのカードとジョーカー。ジョーカーを引けば恐らく自分が負け、当たりを引けば自分の勝ち。二人とも心臓が早鐘のように鳴り、今にも口から飛び出そうになっていた。


 コータローは震える手をショータローの二枚のカードに伸ばす。確率は二分の一。それは、当たる可能性が高いが外れる可能性も高い、ある意味最高のギャンブルだ。元より小心者のコータローには、この緊張に長時間耐えるのは恐らく不可能であろう。しかし、どうしてもこれ以上手が伸びない。あとほんの数センチがとてつもなく、遠かった。   



 そんな状態がどれくらい続いたのだろう?冷房が効いているはずなのに全身汗まみれの二人。お互いの手が酷く震え、顔には恐怖とも不安とも言えない表情が浮かぶ。歯がカチカチと音を立て、今にも気を失いそうになっていた。

「(このままじゃあ終わらない…俺が、俺が取らなくては!!)」
 意を決し、目を瞑ってショータローのカードから一枚をまるで大地から大木を根っこごと引き抜くかのような強い力で抜き取った。

 時が、止まった。

 驚愕の顔のまま硬直するショータロー。
 
 呆けた表情のコータロー。

 勝負は……


 
 
 
 
 
 コータローの勝ちだった。



「ぃぃぃぃいいいいいやったああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「ちくしょう!!!!負けたああああああああ!!!!!」
 歓喜の声を上げ、大げさに両手を振り上げ喜ぶコータロー。
 悔しさのあまり涙を流すショータロー。
 どうでもいいという顔で漫画を読み続けるユータロー。
 それぞれが、この戦いの余韻に浸っていた。


「さあ、願いを言うぜ!」
「ああ。」
「うらみっこなしだもんな。」
「俺の願いは…」

 コータローの胸に、それまでの死闘がよみがえってきた。つらく苦しい戦いだったが、それもすべてこの瞬間のため、己の願いを叶えるためである。
「俺の願いは、お……」




「お~い、ビール買ってきてくれ~」




『かしこまりましたご主人様。今すぐビールを買ってまいります。』


 コータローの父、プータローだった。あろう事か彼の要求を自らへの願いだと勘違いした壺の魔神が煙とともに出現し、そのままどこかへ飛んで行ってしまったのだ。
 数分後、魔神が一本の缶ビールを持ってきてプータローに手渡した。
「お、誰だかしらねーがサンキュー。ゴク、ゴク…ぷはー、ああ美味い。やっぱりビールはサイコーだな。」
 満足そうに爽やかな笑みを浮かべる父プータロー。

「ん?どうしたんだそんな怖い顔して??」


「こ…こ…こンのグータラ親父ィィィィィィィィィ!!!!!!!」


 その後しばらくの間、父プータローは息子コータローに口を聞いてもらえなかったそうな。めでたしめでたし?