私のやんごとなき王子様 理事長編
「どうかしたのかな?」
「理事長……失礼します!」
さっと手を伸ばして理事長のおでこに手を当てる。
「―――やっぱり、少し熱があるみたいですね」
「小日向さん……」
「あっ! すっ、すみません! 理事長がお辛そうだったので、もしかしたら熱があるんじゃないかと思って!」
慌てて手を引っ込め頭を下げる。理事長はふと笑うと、ゆっくりと椅子に背中を預けた。
「昨日も君に心配をかけたのに、今日もだなんて、僕は駄目な理事長だね……」
「そんなことありません。お忙しいのは分かりますけど、ちゃんと体も休めないと」
「それじゃあ一つ、お願いしてもいいかな?」
「お願い、ですか?」
一体なんだろう?
ドキドキしながら理事長の次の言葉を待つ。
「――美味しいおかゆを作ってくれないかな」
「おかゆ……ですか?」
お願いがおかゆ?
「わ、分かりました。美味しいおかゆですね。すぐ作るので、少し休んでいてください」
私はそう言いながら部屋を飛び出した。
調理室へ行って材料をもらい、再び理事長のいるスイートルームへ戻る。
部屋にあるキッチンに立って材料を並べた所で気がついた。
理事長みたいな人が食べるおかゆって、もしかしたら老舗の料亭で出て来るようなとっても高級なおかゆなんじゃないかって。
「利尻昆布? 土佐のカツオ節? あきたこまち? ……いや、トリュフ?」
「何がトリュフ?」
「あ」
作業を中断させてぶつぶつ呟いていた私の後ろから、理事長が手元を覗き込む。
「理事長、休んでいてくださいって言ったじゃないですか」
「今休んでいるよ。君が僕のためにおかゆを作ってくれる所をこうやって見学してるだろう?」
「それは休んでいる事になりません! ――あの、理事長。大変申し訳ないのですけど、私は理事長のお口に合うようなおかゆを作った事がないので、普段家で作っている作り方になってしまいますけど……」
申し訳ないと頭を下げると、理事長は私が持って来た野菜を手にとって頷いた。
「小日向さんがいつも作っているおかゆが食べたいから頼んだんだよ。お店で食べるおかゆなんて、いつでも食べられるだろう?」
理事長の優しい言葉に私はほっとした。
作品名:私のやんごとなき王子様 理事長編 作家名:有馬音文