OutMajic
「なんだってことはないだろう。みずくさいなぁ。一緒の講義選んでいたんだから声掛けてくれればいいのに」
そういって秀はバシバシ背中をたたく。
彼の名は阿柴秀。僕と同級生で同じクラス。僕とは違って魔法使い一族に生まれたわけではないが、同じ学部である。そして寮の部屋も隣同士。しかし友達と呼べる存在なのかどうかと言われると首を傾げてしまう。本人は勝手に心の友などと呼んでいるが。
「別に呼ばなくても付いてくるだろう」
「ま、そうだけどね」
秀と出会って1年。もうこのテンションには慣れた。めんどうだと思いつつも、このやりとりをどこか楽しいと思っている自分がいた。
秀と二人、目的の第四教室に入る。教室の中にはすでに席が埋まるくらい学生がいた。
現在8時半。講義は8時40分からなのであと10分ほどで始まる。僕は席に着き、教科書を出して講師を待つことにした。
「や、つ・か・さ・くん♪」
僕はその声を聞き、思わず顔をしかめた。
目の前にはなぜか『制服』を着た少女が立っていた。いや、同じ20歳なわけだから「少女」というのは正解ではないのだろうが・・・・。問題はそこではない。どうも慣れない。これだけは・・・・・と心の中で思わざるを得なかった。
「ん?どうしたの、そんな不機嫌そうな顔をして~」
ほんとに不機嫌になっていることは知らないであろう目の前の『少女』は、にこにこしながら司を眺めている。
彼女の名は、西藤里奈。
「その恰好」
そう言って指を指す。
そう。問題とは、その格好だ。彼女が着ている制服は某アニメに出てくるそれそのものだ。いわゆるコスプレだ。普通の中学や高校の制服ならまだいい。いや、それもナンセンスだが、これはないだろう。
問題はまだある。彼女のその容姿。中学生とも小学生とも見えてしまう彼女には、この制服がまた嫌に似合うのだ。だから学生の中には彼女のファンは多い。ひそかにファン倶楽部が出来ているとかいないとか。まったく中学生じゃないんだから。
正直、彼女のことはよくわからない。と僕は思っていた。
入学当初からこのようにスキンシップが激しいのだ。僕は里奈を知らなかったが、里奈は僕を知っているかのようだった。僕が知らないというと、一瞬寂しそうな顔を見せたことをいまでも覚えている。
「里奈ぁ――。先生来たから席着きな――」
友達のお呼びに反応し、バイバイと手を振って自分の席に戻って行った。
2
今日の授業は午前中のみだったため、昼食を終え、寮に戻った。
「今日も行くのか、あそこに」
「ああ」
部屋の前で会った秀にそう言ってリュックを背負い直す。
「夕飯までには帰るだろ?」
「もちろん」
「お前も頑張るねぇ」
そう言って秀はどこかへ行ってしまった。
秀の言うあそことはバイト先である。大学から自転車に乗り、20分ほどで着く。新道から古い路地を入ってやっと発見できる。看板もないそのお店を。
「こんにちわー」
扉を開け、挨拶をした。その声を聞き、店主が奥から出てきた。
「やぁ。今日は早かったね」
和服を着て、眼鏡を掛けた中年の男性。背は170cm程度。見た目も中身も優しいこの人がこの『万屋たちばな』の店主、橘考太郎さんだ。一見普通の人だが実は魔法使いだ。そして僕の師匠でもある。来年になったら研究室の教授が師匠にあるわけだが、長くご教授できるわけではない。あくまで基礎を教えるに過ぎないからだ。ならば永く教えてくれる先生を探そう、なんて考えていた。同時にバイト先を探していたところ、この店の店頭に「バイト求む」とあり、入ってみた。そしてあっさり採用されたのだ。孝太郎さんその理由として、「ここにはね、少しきつめの結界が張ってあるんだ。君はそれをあっさりと潜り抜けた。才能あり。文句なしの合格」なんて言って笑っていた。