ネバー・ランド(NEVER LAND)
ニヒルでクールなガンマンが似合わなさ過ぎる科白を吐いた時、隣で滋さんが吹き出した。ソファに座り直しながら、やっぱ次元は格好いいわー、と呟く。
長い脚を組むその様はガンマンに劣らず格好よく、この姿見たさに店に来る女の人も多い。
今の科白のどこが格好よかったのだろうかと心の中で首を傾げる俺は、今まで彼の相棒である剣士の方が好きだったが、こうして休日に無理矢理滋さんとDVDを観るようになってからは、ガンマンも好きになった。
「お前もそう思う?」と嬉しそうに笑う姿に、同じものを見ている安堵感を感じるから。そのためならば、こうして休日を過ごすことだって、お易い御用だ。
だけどほら、取り出された煙草、点けられた火。お易い御用な俺の努力など、すぐに煙になる。
滋さんは静かになって、煙草を手に持ったまま意識を遠くへ飛ばしてしまった。
滋さんは時々遠くを見つめたり、急に黙り込む癖がある。
特に煙草を吸う時はこうだ。俺は喫煙したことがないのでわからないが、確かにぼおっとしてる姿は喫煙者によく見かける。だけど滋さんの飛び具合はちょっと普通じゃない。こうなったら声をかけても体を揺すっても、一切返事をしてくれなくなる。おまけにピクリとも動かない。
丁度機械のヒューズが跳んだ後のように、丁度海が凪いだ瞬間のように、気付けばピタリと静止しているのだ。まるで別世界に行ってしまったようだ。
きっと煙草の先の煙は路上の明かりを灯し、滋さんをネバーランドへ連れて行ってしまったのだろう。
それは滋さんだけ行けて、俺には行けない世界。
「…滋さん?」
擦れた声では決して届かないのだ。
「滋さん」
俺の声が、俺の声が貴方を目醒めさせられるのなら、貴方と毎週末会う必要はないけど、そんな努力だって無駄になるなら俺の声は何のためにあるのだろう。
「どうしたのさ、急に黙りこくっちゃって」
ハッとして前を見ると、煙草を口から離した滋さんが笑っていた。途端に世界が急速に音を取り戻していく。
TVの発する嫌な電子音と、くぐもって聞える外からの風の音や車の音。目の前のTVに目をやると、画面は終了の合図として真っ黒になっていた。
「滋さん」
「ん?」
此方にだってカタルシスがあることに、どうか気づいてくれよ。
「……続き、見ましょうよ」
心とは裏腹な言葉を発した途端に急に切なくなって、俺は滋さんの煙草を持っていない方の手を、ぎゅっと握った。
だけど何をしたって、何も伝わらないのだ。
「どうしたの急に」
「……何でもないです」
作品名:ネバー・ランド(NEVER LAND) 作家名:つえり