私のやんごとなき王子様 鬼頭編
12日目
いよいよ明日を演劇祭本番に控えた星越学園の生徒達は皆、今日という日を成功に向けて一丸となって過ごしている。
舞台の上では土屋君が大道具で作ったセットの配置を決めるのに、珍しく大きな声を上げていた。
「ああ、もう少し右! そう、そこだ!」
「照明はこの角度でいいか、土屋?」
ホールの中に照明担当の声がマイクを通して響く。
「駄目だ、その角度ではせっかくの色にライトが反射して美しさが半減してしまう! もう少し左に傾けてくれ!」
土屋君の指示の元、舞台の上にどんどんセットが組まれていく。昨日までは何も無かった空間に、今は白鳥達の舞う湖が出来上がっていた。
そんな様子をしばらく眺め、私はやや急ぎ足で廊下へと出た。
次に控室はと覗いてみると、そこには風名君と潤君が衣装を着てリハーサルの始まりを今か今かと待っている。
その姿はまるで本物の王子様と従者みたいで、私は一瞬物語の中に迷い込んでしまったのではないかと錯覚を起こす。
「そうか、了解」
その横で三島君がインカムから流れてきた声に耳を傾ける。
「役者の皆さん、舞台は後20分ほどで完成する予定です。最終準備の方よろしくお願いします」
そう言い残すと三島君はインカムからの新たな指示を受け、控室を後にした。
「小日向君。君も大変だろうが、あと一踏ん張りだ。頑張ってくれたまえ」
私に気付いた三島君がすれ違いざまに声を掛けてくれた。本当に息つく暇もないとは三島君の事かも知れない。あんなに走ってる姿はとても貴重だ。
そんな三島君の後ろ姿を見送ると、こちらにまで緊張が伝わって来そうな声が聞こえた。
「あと20分……まだ本番じゃないのに、緊張が……」
「大丈夫だよ、波江。合宿での練習通りにやるだけだ」
「はいっ! 有難うございます」
緊張に震える潤君を風名君が優しく諭す。
作品名:私のやんごとなき王子様 鬼頭編 作家名:有馬音文