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私のやんごとなき王子様 鬼頭編

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 宿舎はとても広くて、作りもちょっと変わってる。元々近くの無人島をいくつか経由して遊ぶ、リゾート客用のホテルとして建てられたらしい。不況のあおりで事業に失敗し、買い手が付かなくなった所を先代の理事長が島ごと買い取って学園用に改築したらしい。う〜ん。ちょっと想像つかないくらいのお金持ちなんだよね。

 私はそんなどうでもいいことを考えながら裏手へと抜け、中庭を突っ切って更に森の奥へと入り込んだ。
 緑の屋根が広がるそこはとても静かで、鳥のさえずりまで聞こえててとっても清々しい。

「はあ〜〜〜〜」

 て、深呼吸してる場合じゃなかった。

「えっと……先生、鬼頭先生いますか?」
「……小日向?」

 思いがけず返事が返って来て、私はすぐに目線を奥へと向ける。
 低木の向こうから鬼頭先生が現れて、その姿を捉えた瞬間何故かトクンと胸が鳴った。
 ――えっ? 何でっ?!

「どうした、もうミーティングは終わったのか?」

 前髪をかきあげながらこちらへやってきた先生の顔を、私はちょっぴり恨めしそうに見上げた。
 だってだって、どうして私が先生を見てドキっとしなきゃいけないのよ。可笑しいじゃない!

「おい、俺が質問をしてるんだ、返事をしろ」

 眉間に皺を寄せた先生の様子に、私は漸く気がついた。

「あ、眼鏡」
「あ?」

 そう、鬼頭先生の顔にはいつものあの銀縁の眼鏡が無かったのだ。
 そうか、だからいつもと雰囲気が違ってドキっとしたのか! なあんだ、ドキっとして損した!
 一人納得した私は、ポンと手を打って頷いた。
 なるほどね、うんうん。そうかあ、ふむ。鬼頭先生って眼鏡してないと増々いい男……って、何考えてるのよーー!!
 睨んでいたかと思えば今度は笑い、次には驚いて焦る私に、鬼頭先生は眉間の皺を増やして私のおでこを人差し指で弾いた。

「お前ちょっと落ち着け」
「いたっ!」

 デコピンをされた額を咄嗟に押さえ、私は本来の目的を思い出した。