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私のやんごとなき王子様 真壁編

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 土屋君はひどく不機嫌そうな、納得いかないといった顔でベンチに座っていた。
 私達はそんな土屋君を囲むように立って、お互いの顔を見合わせため息を吐く。先ほどから先生が諭してるけど暖簾に腕押し。一言謝ればいいのに、どうしてこう変わり者というか偏屈? なのかな。

「いいか、お前がどう思おうと勝手だが、俺達はお前の事を心配して止めたんだぞ?」
「言われなくても分かっています。はあ……これでもう二度とあの美しさを体にも脳にも取り込むことは出来なくなってしまった。なんてもったいないんだ――」

 土屋君は本気でショックを受けているのか、すっかり項垂れてしまっている。

「はあ〜〜〜。もういい! おい、小日向!」

 先生はとうとう説教を諦めたらしく、ガシガシと自分の頭を掻くと私を見た。

「え? あ、はい?」
「こいつと同じ大道具のリーダーに連絡だ。こういうことがないように注意しておくように伝えてくれ」
「あ、はい」

 そして先生はもう一度「もう二度とするなよ!」と土屋君に言い残して去って行った。
 本気で心配してるから、あんなに怒るんだよね。

「先輩」
「潤君。どうしたの?」

 まだ項垂れる土屋君を見ていると、潤君が悲しそうな顔で私に声をかけた。

「土屋先輩、大丈夫でしょうか?」
「あ……きっと大丈夫だよ。潤君ありがとね、もう大丈夫だから」
「はい、失礼します。あの、何かあったらいつでも言って下さいね」

 潤君は小さく手を振っていなくなった。潤君も優しいんだよなあ。
 それにしてもーーー
 私は目の前の土屋君に再び視線を戻して、小さく心の中でため息を吐いた。

「土屋君……」
「ふう……もういいよ。好きにすればいいさ」

 え?
 私が口を開いたその瞬間、ぼそりと呟いて立ち上がった土屋君の横顔が一瞬だけどすごく辛そうに見えた。

「あ、待って!」

 土屋君の後を追いかけ、私は土屋君の隣りに並んだ。
 その向こうに見える海が青と白に交互に輝いていて、すごく綺麗だった。

「海の光……」

 ああ、これを土屋君は体に染み込ませたかったんだな。でもやっぱり危ないものは危ないもんね。