君と僕のセカイ
突然、冬司が呟いた。
「一体このセカイはどうなるんだろうな」
口調はいつも通りなのに、冬司の表情は少し寂しそうだった。
「なあ、夏貴」
僕らがひとつになるなんて、一生叶わない願いだ。冬司もそれをわかっている。
それは、僕らにとってわかりきった事実であり、変わりようのない真実だから。
「夏貴」
視界がぼやけて冬司の顔がじわじわと滲んでいく。
冬司は今泣いているのだろうか、笑っているのだろうか、それともまたいつもの仏頂面なのだろうか。
水彩画のようにぼやけていく僕の瞳には何も映らなかった。
それでもここに、僕のとなりに冬司がいることだけは、確かだった。
「ヒトリになるのは恐いな」
どちらともなく手を伸ばして抱き合い、祈るように何度も口付けを交わした。
何度も、なんども、ひとつになれたらと祈るように───。
気がついたら、『僕』は白いベッドの上で横たわっていた。
「冬司」
冬司がいない。ついさっきまで僕のとなりにいたのに。
「冬司、返事してよ」
いつも僕のそばに、ずっと『僕』の中にいた冬司が、いない。
「ねえ、冬司ってば」
いくら呼びかけても冬司は答えてくれない。冬司の鼓動すら、聞こえない。
「ねえ…っ」
僕はヒトリになってしまったのだろうか。
血の気が引いていく感覚とともに、不安と悲しみの波が押し寄せてくる。ぼろぼろと溢れ出す気持ちがとまらない。
「やだよ冬司…ヒトリになるのは…恐いよ…!」
いつかこうなってしまうことは知っていた。
僕らはヒトツの中に生まれたフタリ。それが普通ではないことぐらいはわかっていた。
でも、それでも、僕は冬司を愛していた。そして冬司も僕のことを愛してくれていた。生まれたときから、ずっと。
「僕は…冬司がいなきゃだめなんだよぉっ…!!」
ヒトツの中にヒトリきりじゃ、僕は『僕』でいられない。きっとすぐに壊れてしまうんだ。
君がいなきゃ、僕は成り立たないんだよ。ねえ、冬司。
その数週間後、『僕』はからっぽになった。
灰になったからっぽの『僕』はひどく虚しいものだった。
「いま会いにいくからね」
今なら、ひとつになれる気がするんだ。
…ねえ、冬司。
「これからはずっと二人でいようね……」