紅い夢
そう語る少女は、その男の現れるのを待っていた。まだ年端もいかぬ娘のこと、恋愛というものはこれっぽっちも知らぬ年頃であったが、逆に小さな年頃であるからにして、その神出鬼没性にとても惹かれたのだ。
夜にどこからともなく現れて、宝玉や金銀などを盗み去る。その行く先もどこ屁やら、全く証拠をのこすことなく煙のように消えてしまう。
「怪盗紳士か」
「うん」
「悪者だぞ」
「でも好きなんだよ」
「誰も傷つけず、何も壊さずに盗み去るからか」
「そう、そしてそれはいつも発展途上国の質屋で見つかるんだってね」
「そのころ多額の募金がNPOにされている。宛名不明の募金がな」
「彼なんだね」
「ああ、彼だろうな」
怪盗紳士シアン、と本人は名乗っているらしい。このパソコンのご時世に痕がつきそうなペン書きの予告状を、あたかも推理小説の中の世界のように送りつけてくる。その時刻にちゃんと目当てのものを盗み去っていく。たとえそれが場所を変えられていても、その場所に警官がたくさん見張っていても。
そしてそれを追うのが女流探偵ピンクだった。彼女もまた他の事件を解決してその報酬の何割かを募金に充てている探偵だった。殺人事件・盗難事件・失踪事件と彼女が絡んだ事件で、他のものによる事件なら解決することもたやすかった。彼女はまさにあこがれに古きよき時代の探偵そのものだった。
それでもしっぽをつかませないシアンと、ずっとおいつづけるピンク。二人は顔を合わせることも幾たびもあったという。
そんなシアンとピンクが、息絶えているのが発見された。二人で寄り添うように。そしてシアンの持っていた遺書の中に、彼自身が持っている財宝の在処とそれを募金に用立ててほしい旨が、ピンクの持っていた遺書に自分の財産をすべて貧しい人への寄付に、と書かれている。
どうやらピンクはシアンをとうとう推理して捕まえたようである。だがそれで満足せず、むしろその相手と心中するのを選んだのは、やはり紅い夢の住人だったからなのだろうか。