ワールドエンドクリムゾン-1 アンリの場合
そんな時に教会の象徴であった神子は人心に光を与え神の啓示を人々に与え勇気づけたとされる。
それから時が流れ、復興しつつある世界で再び神子をめぐる時が回り出す。
毎日、教会には沢山の巡礼者が訪れる。
世界を襲った災禍の後、復興の象徴として教会は神子の存在を掲げた。祈りを捧げ神と人間の橋渡しをする存在として、神子は生涯教会の象徴として過ごす。
「神子様、お時間です。」
アンリの名を呼ぶ人間はここにはいない。彼に仕える人間たちは全て神子様と呼ぶ。災禍に見舞われた世界で悲観にくれた人々に光を与えた神子の存在、今もなお神子は神と人を橋渡す存在として祈りの象徴となっている。
「わかりました。」
白を基調とした豪奢な衣装、裾を引きずりながらアンリは大聖堂にある神子専用の席に向かう。一年に一度、神子は教会の聖堂に姿を現す。
アンリがそこに姿を現すだけで大聖堂に来ていた沢山の群衆は歓喜の声を漏らす。ベールに遮られた視界はまるでアンリの状況を示している。なにも見せてもらえない。なにも教えて貰えない。
ただ、神子として生きることを教えこまれて生きている己はなにも見ることが許されないのだろう。
祈りの所作を行い役割を終えればまた教会の奥へと戻される。
「死ぬまで続くのだろうか・・・。」
アンリはその応えを知っている。己が死ぬまでここにいなければいけない。それは決められたこと、片割れがいなくなった時からそう定められた決定的な事実。
「ねぇ、ルチア、あなたは今どこにいるの?」
本当は双子だった。光をルチアが背負い、闇をアンリが背負うはずだった。
だけど、光はいなくなった。闇を背負うアンリだけでは神子はつとまらない。
「探しに行こう。ルチア、僕ならきっと、あなたの場所がわかるから。」
神子は動き出す。
重苦しい衣装を脱ぎ捨て、伸ばした髪を切り、ルチアが残していった平民の服を身につけると人気のない庭から外へと逃げ出した。
神子の周りには人は少ない。教会の奥にいるから余計な知識を与える人間など入らないから教会の奥の館で過ごしていた。それが仇となりアンナの顔を知る人間は一握りしかいない。教会の出口を探してうろうろしていたら一般人が迷い混んだと思いこまれ、教会からつまみだされてしまった。
「祈りの館と、誰にでも門戸は開かれているはずなのに、ひどいなぁ。」
無事外に出られたアンリはぶつぶつ言いながらあてもなく歩き始める。
幼い頃は外で暮らしていた。何年ぶりかもわからない外に少しだけ気分が高揚する。今はここから遠くへ行かなければいけない。
連れ戻されたらもう二度と抜け出せないようになってしまうだろうから、これが片割れを探す最初で最後のチャンスと自覚しアンリは街の中をさまよい始めた。
作品名:ワールドエンドクリムゾン-1 アンリの場合 作家名:由々子