霊・死・時間元素・虚・山手線・哲学的
「ごめん、明日用事があるんだ」
「そうか〜、いつなら空いてる?」
「えーと、来週の月曜は空いてるよ」
「じゃあその日行こうよ」
「ああ」
彼と携帯で交わしたその会話。
その日の夕方、彼は上野駅山手線東京方面の線路上で横たわっていた。血塗れで、彼はほとんど即死状態だった。
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「僕はどこにいるんだろう」
そんな声が聞こえてきたのはその日からだった。気のせいだろう、そんな思いを裏に、その声は連日続いた。そして気づいた。
彼じゃないか。
「おいでよ、一緒にはなそうよ」
「ここは、どこなんだ」
「私の家だけど」
「…なんでここに」
「なんでときかれても」
「そうだ、僕のこと怖がってない?」
「こわいよそりゃあ…でも寂しいならはなしてあげようかな、と思って」
「嬉しいことをいってくれるなあ」
「照れるからやめて…でさあ、ちょっと」
私は聞いた。
「私に取り憑くことができる?」
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「私が秀才になれたにはあなたのおかげよ」
「僕はそれほどのことをしていないさ」
霊能力で記憶を凝縮するという方法を使えば、当然知識量は格段に増える。私を天才女史にさせたのも彼。そして、かねてより加わりたかったプロジェクトに加わることになった。
タイムテクノロジー。
といってもドラえもんが乗るようなあんなやつを作るところではない。ときの流れというものを物質として取り出してものを作るというテクノロジーだ。たぶん日本をおいて世界に他に進んだ研究をしている国はないだろう。
「時間元素iを組み合わせることで生まれたこのフォークで、時空間生物をこの次元に持ってくることができる。この次元内では時空間生物は核エネルギーに変換される。それをコンバートして安定な光と熱エネルギーに変換させて安全で有用な電気エネルギーに変換する。これが時間発電だ」
「時間元素jを取り出して集めたのがこちらの箱にはいっている。管理には気をつけなくてはならない。出した瞬間に時空を拡張させるエネルギーを持つからだ。もっとも最近の手の込んだ泥棒さんはこれで隠れ家を造っているらしいから、本当に有用であることもわかるだろう。これで、人口爆発に対応しうるのだからな」
「時間元素kは反物質としての役割を果たす。反原子の陽クロロフルオロカーボンをぶつけて放出されるエネルギーを外側に向けることで宇宙空間に乱れを発生させることができる。すると地球にくると思われている放射電磁波が解消されるのだ」
私は時間元素tを調査し続けていた。これさえできれば、霊体に再び肉体をもたらすことが可能になる。そして、それは完成した。いともあっけなく。しかし、それによって生まれた彼の姿はどこもあのときと変わらないのに、彼は物憂げな表情を浮かべていた。
「生き返ってもいいことないね」
「なんで?」
「霊能力はそのまま、僕は生きながら死んでいる…僕はきっといつか君に去って行かれるんだろうね。体自体は死体だから」
始めてみた彼の悲しい顔。それをもたらしたのは、しかし自分であるということに、心が痛んだ。
作品名:霊・死・時間元素・虚・山手線・哲学的 作家名:フレンドボーイ42